花王のプレスリリース
2019年5月、花王は、“個性が輝く顔”をアートとサイエンスの両面から探求するため、2倍サイズの顔の彫像作品を制作する現代美術家Kazu Hiro氏と共同研究を開始したことを発表しました。このレポートではKazu Hiro氏による彫像の制作過程に焦点を当て、作品がどのようにでき上がっていくのかを紹介していきます。最終回は、顔にとって重要な「目」の制作と仕上げについて。
【眼球を作る】
2体のシリコーンの顔に肌の色がつき、髪の毛も植え終わったら、ついに最後の工程、顔の中で最も重要な目の制作に取り掛かります。
Kazu Hiro氏は、人間の眼球の構造に近づけるため、白目の部分、瞳の虹彩の部分、そしてその上のレンズと3つのパーツを別々に作り、組み合わせます。虹彩は、青い瞳の人であれば青色をベースに、緑の人なら緑色をベースに他の色も重ねながら筆で模様を描いていきます。オードリー・ヘプバーンの瞳は、ヘーゼル色という明るい茶色と濃い緑の中間のような色です。
瞳の中心には瞳孔の穴が開いていますが、人間の瞳孔もカメラの絞りと同じように、明るい場所では小さく絞られ暗い場所では大きく開きます。この像では一般的な明るさの室内にいる時のような平均的な大きさの瞳孔にしました。
虹彩ができ上がったらレンズと共に白目の型に入れて、白目の素材(レジンと呼ばれる樹脂)を流し固めます。その後、色を塗り毛細血管を足していきます。
京都出身のKazu Hiro氏は、毛細血管におもしろいものを使います。着物の赤い端切れです。これを着物デザイナーにもらった時に、毛細血管に使えると思い付き、細い繊維をちぎって白目に貼り付けていくことにしました。赤い顔料で血管を筆で描くよりも、リアルに毛細血管が再現されます。白目の大部分は頭の中に隠れるので、実際に外から見えるのは瞳の左右の部分だけですが、Kazu Hiro氏は瞳の裏側まで血管を入れます。そうすることにより、見えている部分がより自然になるからです。また白目の瞳より内側と外側では、内側の方が血管が多いので、それも考えながら血管を足していきます。
【目にも年代による違いを表現】
若い頃の目を再現するのはチャレンジがありました。1950年代はフラッシュを焚いた報道写真が多く、実際の目の色がはっきりと写ったカラー写真が限られていたのです。そこで、本人と似た色の目の人の写真も探して参考にしました。
晩年の目は白目の部分に黄色を加えることで加齢を表しています。人間は一般的に歳をとると老人環という虹彩の周りに白く濁った輪ができます。しかし、ヘプバーンの場合は、それが目立っていなかったので加えませんでした。
【目が作品に命を吹き込む】
Kazu Hiro氏は、この顔の制作における目の重要性を強調します。
「作品が生きるかどうかは目次第。人は相手の顔を見た時にまず目を見ます。目が少しでもおかしければ、偽物だと見抜かれてしまうんです」
4つの眼球が完成したら、それを顔にはめ込みます。シリコーンの像の中は空洞で、普段は髪の毛で隠れていますが、後頭部には手が入る大きさの小窓が作ってあります。そこから手を差し込んで眼球をはめていきます。
視線の方向を定めるのに、Kazu Hiro氏は長い時間をかけて顔と向き合います。一度はめて、色々な角度から顔を見て、また近寄ったり離れたりして、ミリ単位で目の位置を調整していきます。最終的に視線を定めるポイントについて、Kazu Hiro氏はこう表現します。
「言葉では表現しにくいのですが、焦点が合った位置というか・・・考えと目的が一直線になったところですね。目線がしっかり合えば中身がついてきます。合わないとせっかく作った像も中身は空っぽになってしまいます。周りの筋肉がちゃんと意思を持って目を動かしていると感じられるような、そんな位置です。その視線が定まった瞬間に、芯が通った、と感じるんです」
【オードリー・ヘプバーン像の完成】
今回のオードリー・ヘプバーンは、本人から見て左側に首を傾け、目線も左前方を見る位置に定めました。視線が定まったら、最後に薄めたシリコーンを涙腺から瞼の下のラインに引きます。目の潤みを表現するためです。目を入れたあとは、像全体を見ながら髪型などを整えます。
映画『ローマの休日』でハリウッドデビューした頃の、将来への期待と不安を抱えた無垢な表情の若いヘプバーン像。そして、幼少期に味わった戦時中の苦しい体験から、恵まれない子供たちを支援する慈善事業に情熱を燃やした晩年のヘプバーン像。半年間の制作期間を経て、2つのオードリー・ヘプバーン像が完成しました。
※本彫像は、オードリー・ヘプバーンを忠実に再現したものではなく、アーティストの解釈によって作られています。
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