TDBのプレスリリース
- 2020年度の国内カラオケルーム市場(事業者売上高ベース)は、コロナ禍による客足の急減も背景に前年度から半減する、大幅な減少が見込まれる
- カラオケは身近なレジャーとして近年定着し、参加人口も微増傾向にあった。しかし、全店休業となった緊急事態宣言後も客足が戻らず、大手でも大幅な減収を余儀なくされている
- 今後は、「カラオケは飛沫感染する」という利用者の不安払しょく、テレワークスペースとしての提供など新たな利活用プランの導入が業績回復のカギとなる。ただ、カラオケ事業としては先行きの不透明感は強く、経営体力の弱い事業者から淘汰や閉店が進む可能性もある
カラオケ業界が新型コロナウイルスの影響で深刻な打撃を受けている。これまで、主な顧客層となる若年層の人口減やアミューズメントの多様化など必ずしも良好な経営環境とは言えない中でも、身近で手軽なレジャーとして定着してきたカラオケ。帝国データバンクが調査した結果、2019年度のカラオケルーム市場(事業者売上高ベース)は前年度比1.4%減の約3400億円となったが、近年は概ね横ばい傾向での推移を続けてきた。
しかし、今年は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、店舗営業の休業や時短営業を余儀なくされたことで稼働率が低迷しており、各社で売り上げが急減している。以降も順次営業が再開されたものの、昼夜ともに街への外出が手控えられたことで利用客の回復は鈍く、特に都市部の繁華街に店舗を構えるカラオケ店では平常の営業状態に戻るメドが立っていない。 こうした状況のもと、11月時点までの各社業績推移を基にした20年度のカラオケルーム市場は、前年から半減する可能性があり、非常に厳しい状態での推移が見込まれる。
繁忙期に新型コロナの影響が直撃、 上場大手3社とも前年から大幅減の厳しい業績
カラオケ業界では近年、安価で手軽に楽しめるレジャーとして再注目されてきた。日本レジャー白書(日本生産性本部)によれば、2019年のカラオケ参加人口は2980万人。10年前(4680万人)に比べると約6割の水準に留まるものの、最も落ち込んだ16年(2810万人)からは増加している。そのため大手事業者などでは、繁華街を中心とした積極的な出店や新機種の投入、フードメニューの拡充などで利用者の獲得を進めてきた。
しかし、今年は新型コロナの感染拡大に伴い三密が避ける動きが利用者に拡がり、カラオケ業界でもその影響に直面。自治体などから休業要請を受け、特に歓送迎会シーズンとして例年稼働率が高い3~4月に全店での休業を余儀なくされ、各社の売り上げ動向に大きな影響を及ぼした。緊急事態宣言が解除された6月以降は全店営業を再開した企業が多く、郊外のファミリー層などを中心としたレジャー需要に回復がみられるなど、一部では好材料もあった。しかし、利益率の高いフードサービスを制限するなど平常通りの営業は依然として困難だったほか、会食自粛や都心部を中心に在宅勤務が広がったことで、社会人を中心に客足が戻って来ておらず、特に繁華街を中心に事業を展開していた店舗では苦戦が続いている。
こうした状況を背景に、上場するカラオケ大手3社の業績も厳しい内容となっている。「ビッグエコー」などを展開する第一興商は、カラオケ事業の売り上げが最も落ち込んだ20年4-6月期で、前年から2割の売り上げに急減。「まねきねこ」のコシダカHDは、3-5月期の同売上高が7割近く減少した。「カラオケの鉄人」を運営する鉄人化計画は、3社の中では最も落ち込み幅が少なかったものの、それでも約6割減と大幅な減収を強いられた。
各社とも、緊急事態宣言の発令による全店一斉休業や、その後の平日夜の客足伸び悩みなどが業績に大きく影響した。夏以降は各社とも売り上げ動向は良化傾向にあるものの、外出自粛などの影響を受け業績の戻りが遅れている。
今年度は厳しさ続く 安全性のアピール、新たな利用シーン開拓がカギ
コロナ禍で大きな打撃を受けたカラオケ業界の今後は、感染防止対策の徹底による安全性のアピールとカラオケルームの新たな利用法の模索が、苦境を打破するカギとなってくる。カラオケ各社では、マイクなど周辺設備への消毒徹底など万全の対策を実施。理化学研究所と神戸大学などがスーパーコンピューター「富岳」で行ったシミュレーションでは、換気口の下でマスクを着用すれば、通常の歌唱時に比べて飛沫の飛散量が大きく減少するなど、対策が取られていれば安全性が保たれることが分かっている 。
高い防音性能やプライバシー保護性能の高い個室などを生かした、「歌わない」カラオケルームとして新しい使い方の提案も進んでいる。ブラザー工業傘下で「JOYSOUND」を展開するエクシングでは、カラオケの新たな楽しみ方を提案 。一人で楽しむ「ヒトカラ」のほか、無観客ライブなどの生配信も行う「みるハコ」など、カラオケ以外のアミューズメント需要を捉える。第一興商は、駅に近い店舗立地を生かし、「ワーキングスペース」としての利活用を目的としたレンタルオフィス事業を2017年から展開 。法人向けのテレワークプラン利用を500店舗にまで拡大し、東京都など自治体とも連携してサテライトオフィスとしての利用促進を図っている 。
現在では、全店が一斉に休業するなどでカラオケルーム事業の売り上げが大幅に減少する最悪期は一旦脱したものとみられる。ただ、夏以降も利用者の伸び悩む企業は多いほか、東京都などで再度の営業自粛要請が出されるなど、書き入れ時となる年末年始需要が見込めなくなった。平時の営業状態への回復は今のところ見通しがつかず、中長期では少子高齢化から市場の拡大も見込めない事から、今回の感染再拡大により経営体力の弱い事業者の淘汰や閉店が一層進む可能性が高い。