BPO放送倫理検証委員会、関西テレビ『胸いっぱいサミット』収録番組での韓国をめぐる発言に関する意見を公表、放送倫理違反があったと判断

放送倫理・番組向上機構のプレスリリース

 放送倫理・番組向上機構[BPO] の放送倫理検証委員会(神田安積委員長)は、関西テレビ『胸いっぱいサミット』収録番組での韓国をめぐる発言に関する意見(委員会決定 第32号)をまとめ、2020年1月24日、記者会見して公表した。
 関西テレビが2019年4月6日と5月18日に放送した情報バラエティー番組『胸いっぱいサミット!』の中で、コメンテーターとして出演した作家が、韓国人の気質について「手首切るブスみたいなもんなんですよ」と発言した。この発言について委員会は、人種や性別などによって取り扱いを差別しないなどとしている日本民間放送連盟(民放連)放送基準に照らし、収録番組であるにもかかわらず適切な編集が行われずに放送されたうえ、放送後にお詫びに至った経緯について詳しく検証する必要があるとして審議を続けてきた。
 委員会が行ったヒアリングの中で、制作陣からは刺激的な表現で「ギリギリのラインを攻める」ことが視聴者から期待されているという趣旨の声が複数聞かれた。これについて委員会は、「ギリギリのラインを攻める」ことの意味とその危うさに対して制作陣の意識は不十分であったと言わざるを得ず、「ギリギリのラインを攻める」番組を放送倫理の観点から客観的にジャッジすることができる体制とはいえなかったのでないかと分析した。そのうえで、民放連放送基準「(5)人種・性別・職業・境遇・信条などによって取り扱いを差別しない」「(10)人種・民族・国民に関することを取り扱う時は、その感情を尊重しなければならない」や、当該放送局の放送倫理規範である「番組制作ガイドライン」の中の「すべての人は人種、皮膚の色、言語、宗教、などによって差別を受けることは許されることではありません」という規定などに照らして、審議の対象とした2回の放送はいずれも放送倫理に違反するものだったと判断した。

委員会の判断
 2回の収録番組での女性出演者の発言は、韓国のことを「手首切るブスみたいなもん」というものであり、「手首切る」と「ブス」という2つの言葉をもって例える内容であった。そして、その発言が「外交姿勢の擬人化」にとどまらず、広く韓国籍を有する人々などを侮辱する表現であって、公共性の高いテレビ番組では放送されるべきではなかったと評価されることは、オンブズ・カンテレ委員会が示した見解のとおりであり、当委員会が付け加えるべきことはない。
 民放連放送基準には、「(5)人種・性別・職業・境遇・信条などによって取り扱いを差別しない」「(10)人種・民族・国民に関することを取り扱う時は、その感情を尊重しなければならない」との規定がある。なお、同基準の解説書(2017補正版)の上記(5)の解説には、人種などを表現する時に「なにげない表現が当事者にとっては重大な侮辱あるいは差別として受け取られることが少なくない。当事者の人権を尊重し、かりにも侮辱あるいは差別されたという念を抱かせることのないようにしなければならない」と記載されている。
 また、関西テレビが『あるある』問題を受けて定めた放送倫理規範である「番組制作ガイドライン」にも、「すべての人は人種、皮膚の色、言語、宗教、などによって差別を受けることは許されることではありません」と明記されている。(「第4章 表現 3.人権をまもり差別を助長しない表現」)
さらには、関西テレビの「倫理・行動憲章」には、「私たちは、人間の尊厳に敬意を払い、多様性を尊重します。人種、性別、宗教、国籍、職業などによって差別を行わず、名誉、プライバシーなどの人権を守ります」との定めがある。
 ゆえに委員会は、審議の対象とした2回の放送は、いずれもこれらの放送倫理に違反するものだったと判断する。

おわりに
 聴き取りを通じて、委員会は、少なからぬ制作者たちが、視聴者にお詫びをした局の判断やオンブズ・カンテレ委員会が示した見解に対し、十分に納得していないのではないかと感じた。
 例えば、ある制作者からは、番組により傷つく人々がいたことを事実として受け止めつつも、出演者や制作スタッフが表現したいと考えたものを守ることができなかったと悔いる声が聞かれた。また、本件について、委員会が審議入りしたことを報じたウェブニュースの記事に対する書き込みには、女性出演者の発言を擁護する意見が大半を占めており、悩んでいるとの思いも語られた。
 関西テレビの報告書にも、「ネットの書き込みや視聴者から直接寄せられる声は、その影響力からも無視できるものではありませんが、それ以外の視聴者の心情をどうくみ取っていくのか、マイノリティに対する認識や理解をどう深めていくのか、視聴者に『おもねる』のではなく、『寄り添う』ために、指摘された『作り手のエゴ』とならないためにはどう取り組むべきか。恥ずかしながら、まだ答えを出せておりません」との率直な記載がある。
 聴き取りの中で、そして報告書においても、建前ではなく、本番組の制作者の本音や局側の率直な悩みを共有できたことは何よりの意義であった。そして、このように制作者一人ひとりの思いが局の見解と直ちに一致しないこともありうるであろう。もっとも、その状態のままでは、局の見解やオンブズ・カンテレ委員会の見解は、制作者の本音をただ押さえ込むだけのものになりかねない。自主自律の過程と判断によって得られたこれらの見解を真に実効性を伴うものにするためには、本意見書をも踏まえて、制作者一人ひとりが自分の考えと局の見解との間に「溝」がないか、もし「溝」があるのであれば、それを埋めるためになすべきことは何かを考え続けていくことが必要であろう。そして、局側にも、制作者一人ひとりの思いを受け止めながら、局の見解を深化していくことがこれからも求められる。

 放送人がネットを含め、あらゆるメディアに対してアンテナを高く張り、貪欲に情報を収集し、多様な意見を紹介すべきことは当然である。しかし、ときに偏狭で排他的なものになりがちであるネット上の書き込みや意見などと同様に、テレビにおいて過激な言葉や感情をそのまま伝える番組を作ることがなされれば、放送倫理はないがしろにされる危険をはらむ。そのとき再び、公権力による介入の影が差すのではないか。
「私たちを取り巻く環境の『いま』、すなわち社会問題、世間の風潮、時代の趨勢、メディアの『現在』に常に目配りをしておかなければならないのは、いうまでもありません。しかしこれは、決して取り巻く環境の『いま』にただ迎合すれば良いということではありません」(関西テレビ「番組制作ガイドライン 第1章 番組企画 3.常に『いま』に敏感であるために」)。自らを律するための規範である。ここでも、その意味を制作者一人ひとりが考え続けることでしか、放送による表現の自由は守れない。
 関西テレビが『あるある』で「面白い」「わかりやすい」を過度に追求した結果、放送事業者がBPOに放送倫理検証委員会を設けることになったのは、13年前のことである。私たちは、今回の件を、番組作りに臨むみずからの姿勢を今一度見つめ直す好機にして欲しいと願っている。

■ 委員会決定の全文はこちら
https://www.bpo.gr.jp/?p=10217&meta_key=2019

<参考資料>
「放送倫理検証委員会」運営規則
http://www.bpo.gr.jp/?page_id=903

放送倫理・番組向上機構 概要
名称: 放送倫理・番組向上機構[BPO] 放送事業の公共性と社会的影響の重大性に鑑み、正確な放送と放送倫理の高揚に寄与することを目的とした非営利・非政府の団体。言論と表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的人権を擁護するため、放送への苦情や放送倫理上の問題に対応する独立した第三者機関で、民放連およびNHKによって設置され、以下の三委員会から構成される。

委員会:
放送倫理検証委員会
放送と人権等権利に関する委員会(放送人権委員会)
放送と青少年に関する委員会(青少年委員会)

住所:
東京都千代田区紀尾井町1-1 千代田放送会館

理事長:
濱田 純一

URL:
https://www.bpo.gr.jp/

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