有限会社カラスのプレスリリース
2021年8月、勅使川原三郎+KARASはゲスト・ダンサーを迎えての新作を上演します。
これまでも勅使川原は、内外の多彩な文学作品に着想した数々のダンス作品を創作しています。
今回取り上げるのは、近代日本文学を語るうえで欠かせない存在である芥川龍之介の、
とりわけ多くの人々に読まれている短編「羅生門」──。
その、芥川独特の文体をダンスで表現する、挑戦的な取り組みとなります。
- 芥川による「羅生門」の文体が、ダンスとして立ち上がる──!
近年勅使川原は、作家、また文学作品への飽くなき興味を背景に、数々のダンス作品を発表しています。たとえば、ドストエフスキーの傑作から想を得て2016年に創作した『白痴』は、2018年にパリ、フェラーラ、2019年はロンドン、サンクトペテルブルク、2020年には愛知での上演が実現、各地で高評を得ました。このほか、ポーランドの作家ブルーノ・シュルツの諸作品、アルチュール・ランボー、スタニスラフ・レム、萩原朔太郎、中原中也、宮沢賢治など、内外のさまざまな作家の作品を題材とし、創作を重ねています。常に、その作品の独特の筆致、文体を、ダンスで表現することを目指す勅使川原が、今回、初めて挑む芥川作品にいかにアプローチしていくか、大いに注目されます。
- ダンスでなければ表現できない、新たな「羅生門」の誕生
芥川の「羅生門」には、飢餓と疫病が蔓延する極めて生きにくい世界で、安らぎを失った人間の、極限の状態に置かれた時のふるまいが描かれています。そこに、コロナ禍に喘ぐ現代に通ずる真実を見出した勅使川原は、羅生門に棲むという鬼の存在に重きを置きながら、ダンスでこそ表現し得る独自の「羅生門」を打ち出すべく、構想を練っています。捨てられた死体が重なる、忌まわしい空気に包まれた羅生門。そこで繰り広げられる人間の悪事と葛藤、その先に見えてくるものを、鋭く、かつ幻想的に描き出す、新たな「羅生門」が誕生します。
- 世界的スター・ダンサー、リアブコが勅使川原作品に初参加
舞台では、勅使川原自身と、勅使川原のアーティスティック・コラボレーターとして活躍する佐東利穂子に加え、ゲスト・ダンサーのアレクサンドル・リアブコが重要な役割を担います。現代バレエの巨匠、ジョン・ノイマイヤー率いるハンブルク・バレエ団のプリンシパルとして活躍、『椿姫』『ニジンスキー』をはじめとする数多くの作品で卓越した表現力を発揮し、世界を魅了しているダンサーです。勅使川原のメソッド、創作について「一から勉強したい」と、今回初挑戦となる勅使川原作品への意欲を見せているリアブコ。6月末に来日し、2週間の隔離期間中にも作品に向けて準備を進めています。勅使川原も、「彼は、私のやり方についてよく理解し、新鮮な気持ちで向かい合おうとしてくれています」と、新たな出会いを楽しみにしています。
- 笙奏者、宮田まゆみとのコラボレーション
音楽では、平安時代から継承された東洋の伝統的な楽器、笙の演奏が大きな役割を果たします。奏者は、国際的な活躍で知られる宮田まゆみ。東京公演では舞台上での生演奏が実現します。宮田は2018年5月に初演された『調べ─笙とダンスによる─』で勅使川原との初のコラボレーションにのぞみ、ダンスと絶妙に響き合う見事な演奏で強い印象を残しました。今回もその笙の崇高な音色をもって、人々を「羅生門」の世界へといざないます。
昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響により予定されていた『三つ折りの夜』上演を断念、
勅使川原三郎+KARASにとって東京芸術劇場での公演は2年ぶりとなります。
満を持しての公演に、どうぞご期待ください。
- 勅使川原三郎コメント
『羅生門』をダンス作品にしようという試みは、私の他の創作と同様、単に物語をダンスでなぞって見せようということではない。芥川の『羅生門』は、平安時代の飢餓、疫病の時代に、生きる術を失い、困り果て、もうこれ以上どうしようもないほどに切羽詰まった人間を描いている。多くの死体が横たわる羅生門の中にぽつんと生き残った人間が、行くところもなく雨の滴る音を聞いている。そんな時ですら、人間には欲があり、どこかに善悪の観念があり、そして裏切りがあり、葛藤があるということが面白く、また滑稽でもある。貧しさの、最低の状況にこそ、鮮明に見えてくる何かがある。私は、羅生門の「鬼伝説」に立ち返るとともに、芥川の筆跡、その文体を、ダンスとしてどう表すことができるか、探っていきたい。
勅使川原三郎
- 勅使川原三郎版 「羅生門」あらすじ
雷鳴がとどろき、激しい雨が降りしきる。捨てられた死体が重なる、禍々しい空気に満ちた羅生門。そこに、一人の下人が駆け込んでくる。下人の目が捉えたのは、横たわる女の死体から、髪の毛を一本、また一本と抜いている老婆の姿だ。抜いた髪の毛でかつらを作り、売るという老婆。その忌まわしい行為に強く嫌悪した下人は、老婆を殺し、着物を奪い逃げる。その悪事のすべてを見ていたのは、鬼だ。鬼は下人を逃さなかった。聞こえてくるのは、断末魔の恐怖の叫びか、恍惚の吐息か。羅生門の闇が、動き出し──、夜明けの冷たい光に溶けてゆく──。
- 東京芸術劇場における勅使川原三郎 公演歴
こちらからご覧ください
https://prtimes.jp/a/?f=d79112-20210712-4adaad608b1c48181cab08f26a72c5bb.pdf
- プロフィール
【勅使川原三郎】
1981 年より創作活動を開始。85 年 KARAS 設立。以降、世界中の芸術祭や劇 場から招聘を受け公演を行う。独自のダンスメソッドを基礎に美術と音楽の稀 有な才能により国内外で、バレエ団への振付、オペラ演出、映像製作等、常に 芸術表現の可能性を広げている。2013 年に活動拠点カラス・アパラタスを開設。 20 年より愛知県芸術劇場芸術監督。2007 年ベッシー賞、文化庁芸術選奨文部 科学大臣賞、2009 年紫綬褒章、2017 年フランス芸術文化勲章オフィシエ他、 国内外の受賞多数。
【佐東利穂子】
1995 年から KARAS ワークショップに参加。96 年より勅使川原三郎振付の全 グループ作品に出演。近年では勅使川原のアーティスティック・コラボレータ ーを務め、創作においても重要な役割を果たす。2019 年から振付家としての創 作も開始、欧州でも高評を得ており、アテール・バレット(伊)「Traces」を振付 た。今後は自身の創作も続く。2012 年第 40 回レオニード・マシーン賞、2018 年芸術選奨文部科学大臣賞他、受賞多数。
【アレクサンドル ・リアブコ】(ハンブルク・バレエ団プリンシパル)
ウクライナ生まれ、キエフ・バレエ学校、ハンブルク・バレエ学校を卒業、 1996 年にハンブルク・バレエ団に入団、2001 年にプリンシパルに昇進した。 正統派クラシックの技術に加え、優れた演技力を誇り、ジョン・ノイマイヤー による『椿姫』『ニジンスキー』をはじめとする数々の作品で、役柄が憑依し たかのような迫力ある演技で客席を魅了する。レゼトワール・ド・バレエ 2000 ダンス・アワード、2014 年ローマ賞、2016 年ブノワ賞受賞。
【宮田まゆみ(笙 演奏)】
東洋の伝統楽器『笙(しょう)』を国際的に広めた第一人者。国立音楽大学ピ アノ科卒業後、雅楽を学ぶ。1983 年より笙のリサイタルを行って注目を集める。 古典雅楽はもとより、武満徹、ジョン・ケージ、ヘルムート。ラッヘンマン、 細川俊夫など現代作品の初演多数。また国内外の主要音楽祭への参加、リサイ タルと幅広く活躍し、「笙」の多彩な可能性を積極的に追求している。2016 年松尾芸能賞・優秀賞、2017 年芸術選奨文部科学大臣賞、2018 年紫綬褒章。
- 公演概要
https://prtimes.jp/a/?f=d79112-20210712-612a8b81d9fbc16a487383b7e1e1c66a.pdf