【本日発売】スピッツの魅力に迫る、伏見瞬『スピッツ論 「分裂」するポップ・ミュージック』「はじめに」&目次全文公開!柴那典とのトークイベント開催決定!

株式会社イースト・プレスのプレスリリース

株式会社イースト・プレスは2021年12月17日(金)に『スピッツ論 「分裂」するポップ・ミュージック』(著:伏見瞬)を刊行しました。全国の書店およびECサイトで発売中です。

https://www.amazon.co.jp/dp/4781620353

【概要】

なぜ、スピッツはこれほどまでに愛されるのか?
ポップでマニアック、優しく恐ろしく、爽やかにエロティック。
稀代のバンドの魅力を「分裂」というキーワードから読み明かす、画期的論考。

【「はじめに」全文】

スピッツの音楽は「分裂」している。それが本書の結論だ。
日本の音楽産業の中で30年以上の歳月を生き残り、今も現役で活動を続ける4人組バンド・スピッツ。彼らは多くの人々を魅了し、影響を与えてきた。私自身、スピッツの音楽に惹かれた人間のひとりとして、彼らの魅力がどこからやってくるのかを考え続けてきた。
その中で、スピッツというバンドの表現には、あらゆる「分裂」が含まれることを見出した。楽曲においても、バンドとしての立ち位置においても、スピッツは分裂している。
分裂とは、ポップ・ミュージックの条件であり、今の世界に生きる人間の条件である。
スピッツの分裂について考察することは、私たちの生活を取り囲む音楽環境を考えることでもあり、私たちが暮らしを営む社会がどのように成り立っているかを考えることでもある。その事実を、本書を通して詳らかに記していく。

本書は9章構成となっており、すべての章がそれぞれ異なる分裂を主題としている。
第1章では〝個人〟であることと〝社会〟の一員であることとの分裂、第2章では〝有名〟であることと〝無名〟であることとの分裂が、スピッツとどのような関係を結んでいるかを示す。
第3章で、スピッツのサウンドが〝とげ〟と〝まる〟という二つの極を行き来した来歴をものがたり、第4章においては、彼らの楽曲のメロディが、〝反復〟と〝変化〟という音楽の分裂構造をどのように扱っているかを確認する。
第5章は、〝日本〟と〝アメリカ〟という、近現代の日本人が抱えた分裂とスピッツとの関係を描き出し、つづく第6章では、日本の中で、彼らが〝中心〟と〝周縁〟の二極に引き裂かれる様を追っていく。
第7章で記すのは、スピッツにおける〝エロス〟と〝ノスタルジア〟の位置であり、第8章が明らかにするのは、スピッツ作品に内在する〝人間〟と〝野生〟の綱引き運動だ。
最終章では、これまでの記述を踏まえて、スピッツの音楽にとって、〝生〟と〝死〟の分裂がどのような響きを持つかを紐解いていく。
各章は、それぞれ独立した内容であると同時に、全体を通してひとつなぎのストーリーともなっている。

スピッツの作品と表現を、本書では「ポップ・ミュージック」に含まれるものとみなす。20世紀以降の社会には、「複製された商品としての音楽」が溢れている。その中でも、ラジオ、テレビ、雑誌、インターネットなど、マスメディアによってつくり手と作品が結びつけられる音楽が、本書での「ポップ・ミュージック」の定義だ。たとえば、誰がつくったか明かされていない環境音楽は「ポップ・ミュージック」ではないが、作者がメディアによって特定される環境音楽は定義に当てはまる。つくり手のキャラクターとイメージも込みで受容されるのが「ポップ・ミュージック」だからだ。いわゆるポップスだけでなく、ロックもジャズもラップもレゲエもテクノもアニメソングもクラシックも、「ポップ・ミュージック」に含まれる可能性がある。多くの録音作品を発表し、雑誌やテレビにも登場するスピッツは、当然「ポップ・ミュージック」の一端を成す。

本書では、スピッツの作品と同時に、メンバー自身が書いた文章やインタビューに基づいた彼らの歴史についても記述する。スピッツの本なのだから当たり前だろうと思う方もいるかもしれないが、そうとも言い切れない。作品の内実と音楽家の人生を切り離す考え方もあるからだ。たとえば、冨田恵一『ナイトフライ 録音芸術の作法と鑑賞法』(2014年)は、スティーリー・ダンのメンバー、ドナルド・フェイゲンが1982年に発表したソロアルバム《ナイトフライ》を詳細に分析した本だが、録音芸術としての作品の特性に焦点を当てるために、ドナルド・フェイゲンのライフ・ヒストリーについては最低限の記述に留めている。出来上がった作品は作者から受け手に手渡されており、作者の人生とは独立して存在している。そう考えるとするなら、音楽家についての情報は、むしろ作品の受容を曇らせる夾雑物と認識されるべきだろう。
しかし本書は、スピッツとオーディエンスの間にある関係に重心を預ける。ポップ・ミュージックとは、つくり手と聴き手の間を流動的に漂う芸術形式である。スピーカーやイヤフォンから流れる音だけでなく、つくり手に関する情報も含めて、人々はポップ・ミュージックを鑑賞している。新しい情報が加われば、聴こえ方も変化してしまうだろう。
そうした音楽の受容の仕方を、不純と見下すことはしない。むしろ、音楽という文化の雑多さを受け入れることは、音楽の複雑さを複雑なまま捉えるために必須の姿勢となる。
スピッツの音楽は、彼らの歴史がどのように語られ、彼らのヴィジュアルがどのようにメディアやライブの場で表れるかということと不可分に結びついている。その結びつきも含めて、ポップ・ミュージックの在り方と考えるのが本書の立場だ。
同時に、スピッツのフロントマン、草野マサムネの歌詞についても多くの言葉を費やす。鳴らされた音の集合体である音楽に対して、言葉を取り出して論じる手法は、音の性質を無視した的外れの論評になりうる可能性が高い。しかしながら、スピッツの音楽において歌詞の役割は大きい。草野マサムネの声と言葉を活かす形でつくられていくのが、彼らの音楽だ。ゆえに、本書では言葉と音の相互影響を、重点的に取り上げていく。むろん、音の鳴り方も蔑ろにはしない。本書は、音楽をつくりたい人が具体的に参照できる本であることも目指す。

ポップ・ミュージックは、取るに足らないおもちゃのように感じることもあれば、人間の生死を左右する重大なものに感じることもある。商売の道具に過ぎないとも言えるし、俗世を超越した偉大な力があるようにも思える。相反する二つの感覚に引き裂かれる不思議に魅せられて、私はポップ・ミュージックを聴き続けてきた。その中でも、引き裂かれる力をもっとも強く感じたのが、スピッツの作品だった。
スピッツについて書かれた本書が、音楽への興味を高め、世界を面白く感じるための糧となるなら、筆者としてそれ以上の喜びはない。

【目次全文】

◆第1章 密やかさについて―〝個人〟と〝社会〟
・スピッツの不思議
・〝公〟と〝私〟の分裂
・メジャーデビューからの不遇
・陰鬱と倦怠の時代
・ユーモア、セックス、シューゲイザー
・密室性の音楽と、完膚なき分裂

◆第2章 コミュニケーションについて―〝有名〟と〝無名〟
・「コミュニケーション不全症候群」
・「マスメディア」と「名前」
・名前をつけてやる
・〝希求〟と〝諦念〟
・キャリアにおける大きな変化
・「5万人が聴くような音楽じゃないと思いません? 」
・裏街道
・「おるたな」としてのスピッツ

◆第3章 サウンドについて─ 〝とげ〟 と〝まる〟
・音楽リスナーとしての「とげまる」
・影響の二面性
・パンクとサイケ
・《ハチミツ》の充実、その後の苦渋
・《ハヤブサ》の手応え
・亀田誠治プロデュース
・〝とげ〟から外れる
・《小さな生き物》のシンプリシティ

◆第4章 メロディについて ―〝反復〟と〝変化〟
・コードの特徴
・メロディの印象喚起力
・〝反復〟と〝変化〟のコンビネーション
・補助線: カーネルとシェル
・メロディと言葉
・湧き上がる死の匂い
・三輪テツヤのギターの役割
・映像がもたらす喪失感

◆第5章 国について―〝日本〟と〝アメリカ〟
・「スキゾフレニックな日本の私」
・日本における「音楽」のはじまり
・唱歌と童謡
・「ピクシーズ童謡」としてのスピッツ
・スピッツの恥ずかしさ、情けなさ
・唱歌・童謡の恥ずかしさ、情けなさ
・〝日本〟であって〝日本〟ではない

◆第6章 居場所について―〝中心〟と〝周縁〟
・歴史的ロックバンドとの距離
・90年代におけるビートルズとストーンズ
・ピクシーズの〝周縁〟性
・〝周縁〟としてのロック・ミュージック
・中途半端なバンド
・渋谷系とV系の狭間で
・美しいクニに居場所はない
・スピッツともっとも近いバンド
・罪深き〝周縁〟者
・ふたたび、日本の〝周縁〟へ

◆第7章 性について―〝エロスと〝ノスタルジア〟
・不定形としての〝エロス〟
・音の中のエロティシズム
・〈ナイフ〉の音景
・歓喜と恐怖
・10代が持て余した〝エロス= ノスタルジア〟
・性の〝周縁〟性
・ぼやけたインディゴブルーの果て
・〈渚〉における「幻」

◆第8章 憧れについて―〝人間〟と〝野生〟
・「夏蜘蛛」になる
・〝野生〟への憧れ
・綿々とつづく〝野生〟
・《フェイクファー》の「偽り」と「幻」
・凝縮の力
・〝死〟の変化

◆第9章 揺続(グルーヴ)について―〝生〟と〝死
・〝死〟から〝生き残り〟へ
・バンドとして生き残る
・﨑山龍男の揺続感
・スピッツのライブ─ 日常と非日常の接続
・バンド活動のグルーヴ
・青い車
・複層する情動
・凝縮された物語、ポップ・ミュージックの「分裂」
・今日の日のスピッツ

【トークイベント】

◆2022/1/16(日)「柴那典×伏見瞬トークイベント 2020年代の音楽と社会」@大阪Lateral
・時間:OPEN / 17:00 START / 18:00
・観覧チケット:前売 ¥2,300 / 当日 ¥2,800 https://t.livepocket.jp/e/4vlu2
・配信チケット:¥2,300 https://twitcasting.tv/lateral_osaka/shopcart/120470
・概要:『平成のヒット曲』『スピッツ論 「分裂」するポップ・ミュージック』W刊行記念イベント!ヒット曲は社会にどういう影響を与えているのか。コロナ禍〜アフターコロナのこれからの社会にどういう影響を与えていくのか。音楽と社会の関わりについて、とことん語って頂きます。
・そのほか詳細:https://lateral-osaka.com/schedule/2022-01-16-2944

【著者プロフィール】

伏見瞬(ふしみ・しゅん)
東京生まれ。批評家/ライター。音楽をはじめ、表現文化全般に関する執筆を行いながら、旅行誌を擬態する批評誌『LOCUST』の編集長を務める。「ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾」第3期、東浩紀審査員特別賞。本作が初の単著。

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