勅使川原三郎ドローイングダンス『失われた線を求めて』

有限会社カラスのプレスリリース

これまで、絵画、文学、音楽、映画など、多岐にわたるさまざまなアーティストやその作品を題材に取り上げてきた勅使川原三郎が、その深淵なる目標への決定的な通過点として、「私」と向き合う新たなシリーズをスタートさせます。「絵画とダンス」と設定されたこのシリーズは、一個人のアーティストである「私」の内的世界がいかにして世界に向かって広がっていくかということを、勅使川原三郎という特殊な身体性、そのダンスと絵画を通して現前に形にすべく模索していく新たな試みとなります。  

  • ドローイングとダンスを通して、舞台上に新たなフォルムを現出させる 

カラス アパラタス ドローイング展示の様子

 
 勅使川原三郎による新シリーズ「絵とダンス」の第1作として創作するドローイングダンス『失われた線を求めて』のモチーフとなるのは、勅使川原自身が描いたドローイング。描くこととダンスを創作することは、勅使川原にとって同じ製作プロセスの中にあり、この二つを探求することでより明快なものが見えてくるといいます。
勅使川原が創作の拠点とする東京・荻窪のカラス アパラタスでは、公演のたびに勅使川によるドローイングを展示し、訪れた人々に、ダンスに向き合う勅使川原の内的世界を感じていただく場を提供していますが、今回の新作では、ドローイングとダンスを通して、勅使川原の新たな展望と身体性とが融合し、舞台上に新たなフォルムが現出することとなるでしょう。勅使川原のドローイング作品は舞台装置としても登場します。
 

 

  • シアターXの空間でこそ実現しうる、新たな表現へ──

 

『ガドルフの百合』(2022) photo by Akihito Abe

 これまで勅使川原は、その活動の拠点であるカラス アパラタスとともに、自由で開かれた創作の場であるシアターXでさまざまな試みを重ねてきました。シアターXでの公演がスタートした2013年以来、勅使川原がテーマに掲げてきたのは「言葉と音楽をテーマにした創作」。主に文学を原作とした作品を多く発表し、特にポーランドの作家ブルーノ・シュルツ原作のシリーズでは、現代舞踊協会主催の第32回江口隆哉賞を受賞。直近では読書する者の内面に光を当てた『読書 本を読む女』(2021年6月)、宮沢賢治の童話をモチーフとした『ガドルフの百合』(同年12月)を上演し、その独創的かつ鮮烈なイメージをもって、ダンスによる表現の可能性を強く印象付けました。ドローイングダンス『失われた線を求めて』は、これらの作品の創作の場となったシアターXでの上演を前提に、勅使川原があらためて挑戦する新シリーズの幕開けとなります。
 

  • シアターXでの新シリーズ「絵とダンス」について── 勅使川原三郎コメント

私の創造性が今までの多種多様な経験の集約としてあるのが私が描く絵であり、
その中心にあるものはダンス的身体性なのです。
要約すれば私のダンスは絵であり、私の絵はダンスです。
それは世界と関わる私であり、私の中にある世界です。
言い換えれば私が絵の中にある世界観であり、ダンスが表す世界観なのです。
それは私個人に限らず、世界と個人とか結びつき、重なり合う、
人間にとって重要なテーマだと考えます。
勅使川原三郎

 

  • 『失われた線を求めて』── 勅使川原三郎 創作ノート

drawing by Saburo Teshigawara

ドローイングは私の日常。動きを生み出し、探し求めるために線を引く。面を広げ影を彫り光を輝かせる。発生した動きは常に明るさと暗さに翻弄され溶け合い、私は喜びと謎に包まれる。身体が自然界から生命エネルギーを得るように、私は紙の平面に生命エネルギーを注ぎ込み、動きをどこまでも追いつづけ、いつまでも遊び、我を失い我を探し求める。ダンスとドローイングの関係は謎のままだが、無時間平面を凝視し、見知らぬ過去や中断された未来の中に、失われた線を私は求め続ける。
勅使川原三郎 

 

  • 『失われた線を求めて』上演にあたって── 佐東利穂子コメント

勅使川原三郎氏の絵と対面すると、いつも知らない場所へ連れて行かれます。
描かれている紙の奥にはもっと広い世界が待っていて、その中へと誘いこまれていくかのようです。
幼い頃、チューリップの中を覗き込んだり、石の模様をじっと見ているとその中に吸い込まれていくように感じた、そんな感覚を思い出します。
暖かく、懐かしく、憧れの、少し怖い、見知らぬところ。
知らないところに迷い込むのは、ダンスをするときにもいつも感じることです。
当たり前の場所が当たり前の場所ではなくなっていき、時間の流れも変わっていきます。
そこにドローイングという未知の要素が加わるとどうなるのか、そんな世界に足を踏み入れるのを今から楽しみにしています。
佐東利穂子

『読書 本を読む女』(2021)

 

  • 〈 寄稿 〉 勅使川原三郎ドローイングについて  “素画という起点”  執筆:水沢 勉 美術評論家、神奈川近代美術館 館長

 
いまから30年以上の時を遡る。その頃の勅使川原三郎の存在感を際だたせた出版物として『青い隕石』(求龍堂、1989年)が知られている。同書をはじめて手にしたとき、モノクロームのドローイングが複数紹介されていて心底驚かされた(pp.28-34)。そして出版記念パーティ会場にはそのオリジナルが並んでいた。素描家としての才能のきらめきを直に確かめることができた。
美術に関心の深かった勅使川原三郎にとって素描は早くから身についていた表現方法のひとつであったはずだ。当時、ダンサーとしてのデビューの衝撃波が残っていたこともあって、同書掲載の詩的断片群の喚起力と相俟ってなんと豊かな才能の持主であるかとしばしオリジナルを前に息を呑んだ。
しかし、その後、勅使川原三郎の表現者としての歩みを辿っていくと、画家としての側面は付加されたエピソード的なものではなく、その本質に深くかかわっていることがはっきりした。多才の一端、ではなく、むしろ、その核心ではないかと思えてきたのだ。
その創作の熱量は下がる気配がまったくない。荻窪にある「カラス アパラタス」の壁面には、無数の素描が途切れることなく発表され続けている。
ドローイングは素の状態の描画である。まさに引く(draw)線を主とする素画。
そこに表現者・勅使川原三郎のすべてが起点として宿っている。それは舞台面の光の効果に結びつくと同時に、その構成も暗示する。さらにはそこに展開する物語をも超現実主義的空間に孕むこともある。そして、それを描く指と手と腕などの身体と頭脳とが閃光のように直結する。つまり素画は、身体表現=ダンスのエッセンスというべき素型なのだ

 

drawing by Saburo Teshigawara

  • プロフィール

勅使川原三郎   S a b u r o  T e s h i g a w a r a
 

photo by Hiroshi Noguchi (Flowers)

 ダンサー、振付家、演出家。クラシックバレエを学んだ後、1981年より独自の創作活動を開始。1985 年、宮田佳と共にダンスカンパニーKARASを設立。以降、KARASと共に世界中の主要なフェスティバルや劇場から招聘され毎年公演を行う。独自のダンス メソッドを基礎に美術と音楽の稀有な才能によって創作をつづける。身体と空間を質的に変化させる唯一無二な身体表現は高い評価と支持を得て、80年代以降、フランクフルトバレエ団、NDTやパリ・オペラ座バレエ団(3創作)を始めとしたヨーロッパの主要バレエ団に委嘱振付、エクサンプロヴァンスフェスティヴァル、フェニーチェ劇場等でのオペラ演出、映像やインスタレーション作品の製作等、芸術表現の新たな可能性を開くアーティストとして創作依頼が多数。2013 年に東京・荻窪に活動拠点として劇場カラス・アパラタス開設、以降、年間を通して「アップデイトダンス」公演で新作を発表している。 2020年から愛知県芸術劇場 初代芸術監督に就任。「地元に根差した劇場」というコンセプトを具体化した作品『風の又三郎』(宮沢賢治 原作)を2021年、2022年に上演。東海圏の10代〜30代までのバレエダンサーと共に作品を創り上げ、教育プロジェクトとしても大きな成果を挙げ、今後も継続されていく。2007 年ベッシー賞、文化庁芸術選奨・文部科学大臣賞、2009 年紫綬褒章、2017 年フランス芸術文化勲章オフィシエ、2022年 ヴェネツィア ビエンナーレダンツァ金獅子功労賞他、国内外の受賞多数。

佐東利穂子  R i h o k o  S a t o

photo by Ryo Owada

 ダンサー、振付家。1995年からKARASワークショップに参加。96年より勅使川原三郎振付の全グループ作品に出演。刃物のような鋭利さから、空間に溶け入るような感覚まで、質感を自在に変化させる佐東利穂子のダンスは、身体空間の新たな次元を切り開く特別な存在として国際的に注目されている。2009年に勅使川原ディレクションによる初のソロ作品「SHE-彼女-」を上演。他に「パフューム」、「ハリー」(小説「ソラリス」より) そして活動拠点のカラス アパラタスでのアップデイトダンスシリーズでもソロ作品が多数ある。勅使川原のダンス・メソッドを深く理解しながらも独自で美しいダンス、そしてその身体の存在感から、世界各地で熱狂的な反応を巻き起こしている。 2019年から待望されていた振付家としての創作活動を開始。アパラタスで初演した初の振付ソロ作品「IZUMI」は欧州初演で高い評価を得た。アテール・バレット(イタリア)へは振付作品「Traces」も手がける等、今後は自身の創作活動も続いてゆく。2012年第40回レオニード・マシーン賞、2018年芸術選奨文部科学大臣賞他、受賞多数。作品創作の面では勅使川原のアーティスティック・コラボレーターも務め、演出・振付助手の役割を担う。

  • 公演概要

ドローイングダンス「失われた線を求めて」
構成・振付・演出・美術・照明・衣装 勅使川原三郎
アーティスティック・コラボレーター 佐東利穂子
出演 勅使川原三郎 佐東利穂子

使用曲 バッハ 無伴奏ヴァイオリン パルティータ 他

日時:2022 年
10 月 7 日(金) 19:30
10 月 8 日(土) 16:00
10 月 9 日(日) 16:00
*開演 30 分前に受付及びロビー開場、客席開場は開演の 15 分前

劇場:東京・両国 シアターXカイ
〒130-0026 東京都墨田区両国 2-10-14 両国シティコア 1 階

料金(税込):指定席 5,500 円/自由席 一般 5,000 円/学生 3,500 円/当日 5,500 円
*指定席は前売のみ、当日券は自由席のみの取り扱いとなります
*学生券は自由席、予約のみの取り扱いとなります。

チケット取扱い:
【ヴォートル・チケット・センター】
WEB https://www.e-get.jp/votre1280/pt/&lg=-1&s=20221007ka 
電話 03-5355-1280(平日 10 時-18 時)

【シアターX】
電話 03-5624-1181(10 時-18時)*自由席のみの取扱い

問合せ:KARAS(カラス) ticket@st-karas.com TEL:03-5858-8189(11時 -18 時)

企画制作:KARAS 主催:有限会社カラス 特別提携:シアターXカイ 助成:文化庁舞台芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)独立行政法人日本芸術文化振興会

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