奇跡的な色彩が乱舞! 江戸・明治の市川團十郎が浮世絵の中で蘇るかのよう 聞こえてくるかのごとき「成田屋」の連呼 新時代、高まるその幕開けの足音、心急き立てられる江戸で、切り結んだ歌舞伎と浮世絵

橘企画株式会社のプレスリリース

橘企画株式会社(代表:橘倍男、本社:東京都千代田区)などでつくる「『市川團十郎と歌川派の絵師たち』展実行委員会」は、2022年11月26日(土)から12月13日(火)まで、歌舞伎役者・市川團十郎三代を描いた歌川派の浮世絵を集めた「市川團十郎と歌川派の絵師たち」展を、東京・有楽町朝日ギャラリーで開催します。120年以上の歴史を持つ日本有数の「浅井コレクション」からの50点余りを展示。江戸後期から明治にかけて江戸歌舞伎を「核身」として牽引した七代目、八代目、九代目の團十郎の雄麗姿が、歌川国貞、歌川国芳、豊原国周らにより、激動期の気分を含んだ躍動的な絵筆で捉えられています。東京・歌舞伎座で上演中の十三代目市川團十郎白猿の襲名披露興行を寿ぐ企画でもあります。

 展覧会は、十三代目市川團十郎白猿の襲名披露興行に時期を合わせて開催することで、市川團十郎という江戸歌舞伎の中核的役者の歴史的な意義を理解する一助となることを願って企画されました。2020年の開催を予定したものの、新型コロナウイルス感染症拡大による影響で、一旦見合わせることになりました。

 しかし、このたび十三代目の襲名披露興行がようやく開幕し、一方で2年前のPRなどを目にしていたファンたちからも実施を熱望する声が上がり、その期待にも応えるべく再度、実現に向けた準備が進められました。

 そもそも、市川團十郎とは、どのような存在なのでしょうか。

 市川團十郎は江戸時代、単なる歌舞伎役者ではなく、成田不動尊の信仰、御霊信仰とも相まって「江戸の守護神」「役者の氏神」と見做され、神仏の権化であるかのように神聖視されたといいます。超人的なキャラクターが登場する「荒事」の芸を支えたのも團十郎自身の信仰心だったという研究者もいます。

 その「荒事」を創始した元禄期の名優の初代、「助六」などを創演した二代目、寛政期の江戸歌舞伎を代表した五代目らに続き、時代が下って「歌舞伎十八番」を定めた七代目、早世した人気の美貌役者の八代目、「劇聖」とも称賛された九代目、「花の海老さま」と呼ばれ、戦後歌舞伎を代表する人気役者だった十一代目、「歌舞伎十八番」の復活などに実直に取り組んだ十二代目も、また歴史に名を刻んでいます。非業の死、自害、大病などの逆境に見舞われながらも、江戸歌舞伎の本流として脈々とその芸統をつないできました。

 今回展示される53点を見てみると、苦悶しつつも獅子奮迅の気迫で、江戸歌舞伎を支え抜いてきた七代目、八代目、九代目團十郎が躍動しています。浮世絵師は初代歌川国貞(後の三代目歌川豊国)、今人気沸騰中の歌川国芳、豊原国周らで、芝居絵・役者絵をよく描いた国貞、国周作品が目立ちます。

 目も顎も鋭く苦味走った印象の七代目、粋で上品で色気も愛嬌もある江戸一番の人気者・八代目、大振りな顔と強烈な双眸の九代目といった面貌の個性の違いも見て取れます。浮世絵師の方も、粋や伊達、いなせといった江戸の美意識をビターな感覚で描いた国貞、「武者絵」で知られながらも、奇抜な構図・画想で、描線はどこか丸みを帯びて現代のマンガに通じるタッチを見せた国芳、西洋化が急ピッチで進む明治時代にたっぷりと豊かにかつ上品に仕上げた国周。こうした絵師の個性の差を見比べても面白いでしょう。

 作品で注目できるのは、なんといっても十三代目の襲名披露興行の演目でもある「勧進帳」「助六」など「歌舞伎十八番」の浮世絵でしょう。八代目を描いた国貞の「助六」、九代目を描いた国周の「勧進帳」は必見です。

 七代目は四代目鶴屋南北とタッグを組み、「東海道四谷怪談」などで写実的な演技を披露し、民衆の喝采を浴びました。国芳の描く「東海道四谷怪談」は出色の作品です。さらに国芳作と推定される「地獄引き」は、八代目の死絵とみられていますが、鬼が八代目を引き連れて行こうとするのを、老若女性ファンが愁訴して、八代目にしがみついて止めようとする絵柄で、色男ぶりがしのばれます。江戸の女性のアイドルだったのでしょう。「与話情浮名横櫛」の切られ与三郎、「児雷也豪傑譚話」の児雷也など八代目が演じて大当たりとなった歌舞伎の、国貞作の絵も登場します。
 

 

   豊原国周作「与衆同楽」(1887年)。「勧進帳」の一場面。明治の新時代に入り、庶民の娯楽だった歌
   舞伎も高尚化し、「天覧歌舞伎」として天皇の面前で披露されるようになりました                             
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                          ※データ保護のためあえて画質を低下させています。

 これらの浮世絵は保存状態が極めて良好で、色彩が鮮烈です。浮世絵それ自体が伝統美術品として価値の高いものといえそうです。所蔵する「浅井コレクション」によると、今回の展示品の多くは、これまで世間のニーズがほとんどなかったため美術展などに出品した記録がない、つまり、光や空気に接触することによる退色現象が起きていないのだそうです。

 「浅井コレクション」は、福井県出身で大阪で書店「浅井書店」を経営していた実業家浅井勇助さんが1897年ごろに創設しました。幕末・明治の激動期の気分を反映し、背景に物語を感じさせる作品を収集したといいます。所蔵する浮世絵は約3万枚。世相史研究に先鞭をつけた「近世錦絵世相史」「錦絵日本の歴史」などの著作があります。

             展覧会に向けた点検の作業も最終盤です
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 役者、浮世絵師、色彩など絵それ自体、すべてよしの展覧会。今回、そこに一種のストーリーをもたせてキュレーションを施している点も見逃せません。先述したように、江戸歌舞伎の総帥ともいえる市川團十郎の歴史を見れば、常に順調だったわけではありません。七、八、九代目の時代も、江戸から明治へ、近世から近代へとパラダイムが転換する時期でした。

 鶴屋南北と共に化政度の爛熟、頽廃の文化を色鮮やかに体現してきた七代目は、「天保の改革」により弾圧されます。奢侈な生活、贅沢きわまりない舞台道具の使用などを理由に江戸を追放されました。格好の見せしめだったのでしょう。結局、江戸の歌舞伎に出演できなくなってしまいます。そこを長男の見目麗しい八代目が救います。八代目が「助六」の「水入り」で使った天水桶の本水を売り出す業者も現れる始末。これが美顔用の化粧水として飛ぶように売れたとか。しかし、わずか32歳で大阪で自害してしまいます。神経質でもあり親孝行者でもあった八代目。父七代目の愛妾ためとの確執などが原因だったとする説もありますが、真相は闇の中です。この危機に、七代目の五男で愛妾ための子供でもある九代目が頭角を現し、明治の近代歌舞伎を築き上げていきます。展示品を通して、そういったストーリーが立ち上がってくるかのようでもあります。

 今回、キュレーションに関わった古井戸秀夫・東京大学名誉教授(歌舞伎研究)は図録の中で「今般の令和の團十郎の誕生を寿ぎ、七代目八代目九代目、團十郎親子三代の錦絵が公開されることになった。展示に際し、A.役者舞台の姿絵=役に扮する團十郎と、B.役者夏の富士=素顔の團十郎の二つに分け、それぞれを年代順に並べることにした。浮かび上がってくるのは、化政期の江戸から明治に至る激動の百年を生き抜いた、三代の團十郎の勇姿である」と記しています。

 肉薄する危機に、したたかに、華やかに抵抗し、逆境をはねのけて乗り越え、再び歌舞伎を隆盛へと導いていった團十郎代々。そこに團十郎の真骨頂があるのかもしれません。歴史が語りかける1つのコアなメッセージです。

 新型コロナウイルス感染症拡大などの影響下、歌舞伎が新たな危機に直面している今、展覧会を通じ、そんなメッセージの一端を感じとっていただければ、主催者一同、望外の喜びです。

【展覧会情報】
■「市川團十郎と歌川派の絵師たち」展
・会期   2022年11月26日(土)~12月13日(火) ※会期中無休
・開館時間 午前11:00~午後6:00 ※入場は閉館の30分前までにお願い致します。
・会場   有楽町朝日ギャラリー
      〒100ー0006 東京都千代田区有楽町2-5-1 有楽町マリオン11階
・観覧料  一般1,500円(税込)/高校・大学生1,000円(税込)
      中学生以下無料 「障害者手帳」をご持参の方(付添の方1名含む)は無料
・お問い合わせ先
      「市川團十郎と歌川派の絵師たち」展実行委員会 橘企画株式会社
       電話:03-5244ー5153 ファクス:03ー5217ー3566  

主催 「市川團十郎と歌川派の絵師たち」展実行委員会 朝日新聞社
後援 松竹株式会社 株式会社歌舞伎座 株式会社3TOP
協力 株式会社ビーエスフジ

※今回の展覧会では、「博物館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン(公益財団法人日本博物館協会)」などに沿って、新型コロナウイルス感染症拡大防止に関する取り組みを行います。

 

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