株式会社WOWOWのプレスリリース
「不思議の国のジュジュ苑 -ユーミンをめぐる物語- JUJUの日スペシャル」
12月24日(土)午後10:00放送・配信[WOWOWライブ][WOWOWオンデマンド]
※放送終了後~1週間アーカイブ配信あり
生きる上で誰もが抱える喜怒哀楽を、胸に深く留め、咀嚼し、まるで自分事のように情感豊かに歌うJUJU。オリジナル曲を大切に紡ぎつつ、一方では、ジャズアルバム「DELICIOUS」シリーズや「Request」シリーズ、そして、2008年よりスタートしたライブ「ジュジュ苑」などでカバー曲も大事に歌ってきた。
そんな彼女が、2022年3月、“人生の教科書”と敬う松任谷由実の楽曲ばかりを歌ったコンセプトアルバム「ユーミンをめぐる物語」をリリース。プロデュースを、松任谷正隆と松任谷由実の両氏が務めたことも大いに話題となった。
その特別な作品を携えて演出に松任谷正隆を迎え、「JUJU HALL TOUR 2022 不思議の国のジュジュ苑 -ユーミンをめぐる物語-」という旅に出たJUJU。最終公演であり、10月10日、自らの記念日に開催した「不思議の国のジュジュ苑 -ユーミンをめぐる物語- JUJUの日スペシャル」で、なにを魅せたのか…。その模様をここにレポートする。
オープニングBGMに誘われるように、薄布の幕に浮かび上がるシルクハットのシルエットが軽やかに踊る。これは、“不思議の国へ”と誘うウサギのメタファーだ。
ラテンのリズムが轟き、ショーの幕は切って落とされると、トレンチコートに身を包み、ピンヒールで颯爽とJUJUが登壇。デビュー曲「光の中へ」で、この世の刹那な物語は華やかに始まった。続く「September Blue Moon」で、早くも驚くべき展開を見せた。ついさっきまでマニッシュな装いで決めていたはずのJUJUが、ニーハイブーツとミニスカート、羽飾りのついたヘッドドレスのセクシーなレディとなって現われたのだから。
ホットなオープニングに、オーディエンスのテンションも急上昇。JUJUも「ようこそ」と両手を広げて歓待した。MCで、本公演がアリス・イン・ワンダーランドから着想した、さまざまな大人の世界を巡るものであること。また、40公演以上続いてきた旅の最終日であり、すべてが明らかになることが告げられた。
妖しげなギターリフで始まる「街角のペシミスト」で、バーカウンターに寄りかかり、気だるげに都会の女を演じるJUJU。「ダイアモンドの街角」では、センチメンタルなピアノに合わせて切なげに歌う彼女の周りを、小さな光の粒が回旋する様は、まるで万華鏡のような美しい煌めきをばらまいていた。
ときおり、絵本を手にその後へと続く物語の1節を朗読するシーンを挟みながら、ショーは色鮮やかに展開されていった。たとえば、「Valentine’s RADIO」ではロマンチックな歌唱でうっとりとさせ、「TUXEDO RAIN」の厳かに愛を誓うようなヴォーカルに合わせ、ダンサーがハッピーな2人を演じ、その多幸感ある姿は影絵のように映し出された。
幸せの絶頂かと思った、次の瞬間…。JUJUはこう語りかけた。「恋は魔法です。魔法をかけたのはあなた自身」だと。
そう、ここからが彼女の魅力がさらに花開くセクションだ。マントに身を包んだ魅惑的な魔女に扮したJUJUは、重厚なロックサウンドに合わせて「ジェラシーと云う名の悪夢」をエモーショナルに歌唱。演出の火柱が、まるで彼女の胸の内に燃え盛る嫉妬の炎のように見えてくるではないか。
続く「鍵穴」では、狂おしい想いを秘めたような歌がじわりと心に刺さった。この曲は、今回のライブツアーを見据えて松任谷由実が、JUJUのために書き下ろした新曲だという。
閉じられた世界に居たはずのJUJUは、続く「TYPHOON」では肌もあらわなビスチェ姿に。たなびく雲のようなスモークに浮かびながら、大人の恋をドリーミーかつ、どこか危うげに歌った。その歌声からは、曲中の2人のフラジャイルな関係までもが透けて見えるようだった。
ウッドベースの重低音を後半への呼び水に、観客をさらに物語の奥深い場所へとJUJUは導いていった。
さっきまで、しゃれたホテルの部屋で大人な休日を過ごしていたはずの彼女は、小さな子供がパパのタキシードシャツをいたずらで着たかのような、ぶかぶかの白シャツに包まれて現われた。この視覚的な錯覚は、不思議の国のアリスの世界観にも通じるものではないだろうか。
シャツの海に泳ぐように「真珠のピアス」を歌っていたかと思いきや、次の「リフレインが叫んでる」では、シャツがミニドレスに変わっている。こうしたおしゃれなステージ衣装の数々も、本公演を華やかに彩る大切な要素となっていた。
終盤は、「花紀行」「卒業写真」といった荒井由実時代のナンバーを含む、時代を飾ったヒットナンバーの数々が多数披露された。コーラス隊が讃美歌を思わせる清らかなハミングを鳴らした「ひこうき雲」では、荘厳かつ温かな空気が満ちるなか、ぽつりぽつりと語り掛けるように歌ったJUJU。複雑な感情と切なさがにじむ、大人ならではの歌唱にオーディエンスはしみじみと耳を傾けていた。
ウォームなバンドサウンドに乗せ、慈しむように歌った「ダンデライオン ~ 遅咲きのたんぽぽ」。華やいだサウンドに合わせて客席へ手を振りながら、まっすぐな愛を歌う「守ってあげたい」など、オリジナルとはまた違う趣の洗練されたアレンジも本公演ならではの魅力。バンドが奏でる芳醇なサウンドは、大人のための夜のワンダーランドに豊かな色どりを添えていた。
疾走感溢れるサウンドが心のワクワク感と連動するような「メトロポリスの片隅で」では、傷みを知りながらも自立した女性像を等身大に歌ったJUJU。歌の主人公と彼女自身が何度も重なって見えたこともまた、本公演の魔法なのかもしれない。
本編ラストを「奇跡を望むなら…」で締めくくり、深々と頭を垂れたあと舞台袖へと下がる背中に、オーディエンスが惜しみない拍手を贈ったことは言うまでもない。
万雷の拍手で迎え入れられ、アンコールに応じたこの日の主役は、5月から続いたツアーについての想いを語り始めた。
「『ユーミンをめぐる物語』というアルバムを作りたいと、決死の思いで王様(松任谷正隆)にお願いに行った」ことや、「その種が芽吹き、こうして花が咲いた」こと。それでも花はいつか散る定めだが、「次に咲く花を想うとワクワクする」ことなど。「とはいっても、やっぱりツアーが終わることがとても寂しい」ことも、素直に吐露した。
そんな寂しさとともに歌い始めた「Hello, my friend」。その1コーラス目を歌い終えたときだった…。黒のTシャツとタイトな黒いパンツという、ごくシンプルな装いだったが、周囲の空気の色ががらりと変わるようなオーラを放って、松任谷由実が、ステージに姿を現わしたのだ。オーディエンスの熱狂とともに迎え入れられたユーミンは、JUJUと顔を見合わせながら親密に歌声を重ねていった。
アンコール3曲目、ユーミンの代表曲の1つ「やさしさに包まれたなら」では、2人がハーモニーを優しく響かせた。おそらく、幼いころから心の中で望んでいたような奇跡が、この夜、彼女の身の上に起きたに違いない。
MCでは、「ツアー、お疲れ様」というユーミンからのねぎらいに、思いが溢れ、「ツアーが終わるのが本当に嫌なんです」と子どものように拗ねたJUJU。50周年を迎えたユーミンにとっても、JUJUからのカバーのオファーを受けたことで、新しく生まれ変わった曲たちと再会することができたという。「50年、俺たちよくやってきたなって(松任谷正隆と)エールを送り合えたのよ」と語った。
そんなJ-POPシーン史に残る名曲の数々を生み出してきた女王、ユーミンが、JUJUの2023年に始まる全国ツアー「ジュジュ苑スペシャル『スナックJUJU 2023』」をフライングでポロリと口走るハプニングも。これもまた、親密さゆえのご愛敬だ。「また一緒にやりましょう」というユーミンからの言葉は、JUJUの来るべき20周年イヤーを力強く支える勇気になるだろう。
オールラストの「A HAPPY NEW YEAR」では、“今年もたくさんいいことが あなたにあるように”と、歌の中に祈りを込めた2人。JUJUが、最後に「本当に幸せな時間でした」とつぶやいたが、それは見る側も同じ気持ちだ。こうした不世出の2つの才能が丹念に作り込んだ極上のショーを、クリアな映像と音で楽しめるのはなんと幸せなことか。ぜひ、その贅沢な時間を堪能してほしいものだ。
取材・文/キツカワユウコ
写真/本内大吉
<番組情報>
「不思議の国のジュジュ苑 -ユーミンをめぐる物語- JUJUの日スペシャル」
12月24日(土)午後10:00放送・配信
[WOWOWライブ][WOWOWオンデマンド]
※放送終了後~1週間アーカイブ配信あり
収録日:2022年10月10日
収録場所:東京 武蔵野の森総合スポーツプラザ メインアリーナ