各国の多様な教育を受けてきた若きドキュメンタリー監督は、なぜ今ふたたび日本の小学校を選ぶのか
株式会社新潮社のプレスリリース
株式会社新潮社は、ドキュメンタリー監督の山崎エマさんによる『それでも息子を日本の小学校に通わせたい』を、3月18日(水)に新潮新書より発売いたします。
「いま小学校を知ることは、未来の日本を考えること」
「私たちは、いつどうやって日本人になったのか? ありふれた公立小学校がくれる、新たな気づき」
これは、著者の山崎エマさんが監督した長編ドキュメンタリー映画『小学校〜それは小さな社会〜』のキャッチコピーです。
東京都内の公立小学校で1年間にわたって撮影されたこの作品は、世界各国で上映され、ドキュメンタリー作品としては国内でも異例のロングランを達成し、全国100館を超える映画館で上映されました。同じ素材から制作した短編『Instruments of a Beating Heart』は2025年米アカデミー賞・短編ドキュメンタリー部門にノミネート、日本人監督による、日本を題材とした作品としては初の快挙となりました。
イギリス人の父と日本人の母の間に生まれ、家庭での「徹底したバイリンガル教育」のもとで育った著者は、わずか6歳で親元を離れて通ったイギリスの小学校をはじめ、大阪の公立小、神戸のインターナショナルスクール、アメリカのニューヨーク大学と、各国の多様な教育を受けてきました。
今では作品を通して日本の魅力を伝えることが多い山崎さんですが、幼少期から「ハーフ」として好奇の目で見られたり、同質性が高く閉鎖的なところがあると感じていた日本社会にしだいに嫌気が差し、アメリカの大学に進学する際には「二度と日本には戻らないかもしれない」という思いを胸に秘めていたと言います。
渡米後は深刻なアイデンティティ・クライシスに加え、「外国人」として避けては通れないビザ問題に苦しみますが、そうした困難を乗り超える中で、自分の「日本的な部分」こそが武器になるのだと気づきます。
その後、ドキュメンタリー監督として歩み始めた彼女が行きついたテーマは「日本人らしさとは何なのか」という問いでした。
その答えを探す最初の作品は「甲子園」。大谷翔平選手や菊池雄星選手らメジャーリーガーを輩出した花巻東高校、横浜隼人高校など強豪校で密着取材を敢行し、貴重な示唆を得ます。それに続く長編作品が、自身も通った「小学校」だったのです。
しかし私は、教育を含め、日本社会のすべてが良いと思っているわけではありません。
19歳で渡米した当時は「もう二度と日本には戻らないかもしれない」と思うほど、日本社会を息苦しく感じていました。(本文より)
こう語りながらも、「それでも息子を日本の小学校に通わせたい」と考える理由は何なのか。
幼少期から現在にいたるまでの様々なエピソードをたどりながら、世界が注目する日本の小学校教育が持つ唯一無二の特徴、そして今の時代だからこそ生かせる「強み」を、著者ならではの視点で浮き彫りにしていきます。
■著者からのコメント
本書は、教育や子育てについての「正解」や結論を示すための本ではありません。
賛成か反対か、良いか悪いかを判断するための一冊でもありません。
イギリス、日本、アメリカと、複数の教育環境を経験し、時には日本社会に対して違和感を覚えたり、距離を取ったりしながらも向き合い続けてきました。その過程で積み重なった私自身の記憶や経験をたどりながら「小学校という場が、どのように人をつくり、社会とつながっているのか」をあらためて見つめ直した記録です。
ご自身の子ども時代と重ね合わせながら読んでいただいてもいいですし、これから子どもたちとどう向き合っていくのかを考える時間にしていただいても構いません。
あるいは、人がどのように育ち、社会が形づくられていくのか―――日本社会の成り立ちや現在を考えるための入口として手に取っていただくというのも、一つの読み方だと思います。
私はこの本に「こうあるべきだ」という主張を込めたわけではありません。
タイトルにある「それでも」という言葉は、単純な賛美でも、断定でもなく、迷い、立ち止まり、問い続けてきた時間そのものを表しています。
自分が親になった今だからこそ、そして外からも中からも日本社会を見てきた立場だからこそ、もう一度立ち止まり、かつて自分が経験した小学校という「小さな社会」を再訪してみたいと思いました。
この本は、その静かな再訪の記録です。
■目次
はじめに
第一章 大阪弁とクイーンズ・イングリッシュ
大阪育ちの私は、6歳の時、両親と離れてイギリスの学校に行くことになる。イギリス人の父は一体何を考えていたのか? 大阪弁とクイーンズ・イングリッシュを使い分ける保育園児の運命は――。
第二章 私は小学校で「日本人」になった
大阪のマンモス公立小学校に入学した直後から「ハーフ」の見た目をからかわれ、気づけば誰よりも「みんなと同じ」を願うようになっていた。学校では徹底的に「日本式」を叩きこまれ、戸惑いつつも、徐々に「日本の学校文化」の良さにはまっていく。
第三章 40か国の国旗が並ぶ廊下の先に
小学校卒業後、神戸にあるインターナショナルスクールに入学。「みんなのために」が第一だった日本の学校とは打って変わって、「自分とは何か」を問われ続ける中、生涯のキャリアとなる映像制作に出会うことに。
第四章 外国人になった私に起きたこと
映画監督という夢を叶えるために渡米した私は、日本でもイギリスでもない国で初めて「完全な外国人」として過ごすうち、本当の自分がますますわからなくなり――ついにはアイデンティティ・クライシスに陥るのだった。
第五章 日本の「あたりまえ」が武器になる
ドキュメンタリーの編集者としてひとり立ちした私は、自身初となる長編監督作品を完成させるため、クラウドファンディングに挑戦する。そして、自分の中の日本的な部分が「武器になる」と気づくのだった。
第六章 高校野球と日本社会「伝統と変革」
日本をテーマにした作品を撮りたい――そう決意し帰国したものの、アメリカのカルチャーとはあまりに違う、日本のメディア業界の労働環境に愕然とする。やがて「高校野球」という日本を象徴するテーマに出会い、実現に向けて動き出す。
第七章 人を作り、未来を作る小学校
取材対象は公立小学校。撮影期間は約1年。準備期間も含めて学校にいた時間、4000時間超。各地でのロングラン上映。そして、アカデミー賞ノミネート。すべてが前代未聞となったこの作品は、どうやって始まったのか?
第八章 日本は今、チャンスの入り口にいる
2020年に世界を襲ったパンデミック。欧米などの個人主義の強い社会は、軒並み対応に苦慮していた。一方で、「みんなのために」を教え込む小学校教育が社会基盤として機能している日本の強みが明らかになる――。
おわりに
■内容紹介
日本の公立小学校は、子どもの人格形成に深く関わり〝勉強を超えた学び〞を提供する、世界でもまれな教育システムを持つ。イギリス人の父と日本人の母の間に生まれ、6歳で親元を離れて通ったイギリスの小学校をはじめ、大阪の公立小、神戸のインターナショナルスクール、アメリカのニューヨーク大学と、各国の多様な教育を受けてきたドキュメンタリー映画監督が自身の経験から綴る「〝当たり前〞の中にある価値」。
■著者紹介:山崎エマ
1989年(平成元)年兵庫県生まれ。イギリス人の父と日本人の母を持つ。19歳で渡米しニューヨーク大学映画制作学部卒業。日本社会の中で育まれた感性と、多文化環境で培った視点を重ね合わせ、独自の視点でドキュメンタリー制作を行う。代表作は日本の公立の小学校を1年間追った長編『小学校〜それは小さな社会〜』。100館を超える大ヒットを記録し、教育やドキュメンタリーの分野を越えて広く注目を集めた。短編作品『Instruments of a Beating Heart』は第97回米アカデミー賞の短編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされ、国際的にも高い評価を得た。前作『甲子園:フィールド・オブ・ドリームス』は、夏の甲子園100回大会を迎えた高校野球を社会の縮図として捉え、ニューヨークタイムズの批評家注目作となった。長編デビュー作『モンキービジネス:おさるのジョージ著者の大冒険』ではアニメーション、アーカイブ素材、インタビューを使いおさるのジョージの知られざる誕生秘話を伝えている。
■書籍データ
【タイトル】それでも息子を日本の小学校に通わせたい
【著者】山崎エマ
【発売日】2026年3月18日
【造本】新潮新書/新書版ソフトカバー
【定価】990円(税込み)
【ISBN】 978-4-10-611117-4