iモードとFOMAが2026年3月終了へ――四半世紀の歴史を振り返る

2026年3月31日、NTTドコモの「FOMA」と「iモード」がサービスを終了する。auは2022年、ソフトバンクは2024年にすでに3Gを停波しており、これをもって日本国内の3G回線は完全に姿を消すことになる。

四半世紀にわたって日本人の暮らしに寄り添い続けたこの2つのサービスは、単なる「古い通信規格」ではなかった。携帯電話の可能性を世界に先駆けて切り拓き、今われわれが当たり前に享受しているスマートフォン文化の土壌を築いた、まぎれもない“先駆者”である。

本記事では、iモードとFOMAの誕生から終焉までを振り返りながら、このサービス終了が持つ意味を考えてみたい。

iモード――「話すケータイ」を「使うケータイ」に変えた革命

1999年、すべてはここから始まった

1999年2月22日。NTTドコモは携帯電話からインターネットやメールが利用できるサービス「iモード」を開始した。初代対応端末は富士通製の「ムーバ F501i」。イメージキャラクターには広末涼子が起用され、テレビCMが全国で放映された。

「話すケータイから使うケータイへ」――当時のドコモが掲げたキャッチコピーは、携帯電話の概念そのものを書き換える宣言だった。

当時、携帯電話でインターネットに接続するという発想自体が一般的ではなかった。モバイルデータ通信市場には懐疑的な空気すら漂っていた時代だ。しかし蓋を開けてみれば、iモードは爆発的な勢いでユーザーを獲得していく。サービス開始から約1年後の2000年2月末時点で447万契約。2001年3月には2,000万人、2003年10月には4,000万人を突破した。

「ビジネスモデル」という武器

iモードの成功を語るうえで欠かせないのが、そのビジネス設計の巧みさだ。開発の中心にいた夏野剛氏(後のKADOKAWA社長)は、かつてこう語っている。

iモードはビジネス的な見地から考えてきた。社内でも、ずっとこれは技術ではないと言い続けていた。IT革命の本質は技術のコモディティ化。技術を使うことが目標になっていては最悪。何かをするために技術を持ってくるのが本筋でしょう。

出典:ASCII.jp「夏野剛氏が退社のワケを告白」

iモードが採用したのは、当時携帯電話業界の標準だったWAP/HDMLではなく、PCのウェブサイト制作に近いC-HTML(コンパクトHTML)だった。この選択により、コンテンツプロバイダは特別な技術を習得する必要がなく、気軽にサービスを提供できた。さらに、コンテンツの売上配分もドコモが手数料として9%を徴収し、残りの91%をコンテンツプロバイダに還元するという、当時としては画期的に事業者寄りのモデルだった。

結果として、サービス開始時に84社だった参加企業は急速に膨らみ、着信メロディ、待受画像、占い、ゲーム、ネットバンキングなど、多種多様なコンテンツが花開いた。そして「勝手サイト」と呼ばれる非公式サイトも無数に生まれ、個人が自由にコンテンツを発信する文化が携帯電話上で育っていった。

iモードが生んだ文化の数々

iモードは単なる通信サービスを超えて、日本人の生活文化そのものを変えた。

「着メロ」に熱中し、新曲が出るたびにダウンロードした人は多いだろう。「デコメール」で凝りに凝ったメールを送り合い、「iアプリ」のゲームに夢中になった経験を持つ世代も少なくないはずだ。そして何より、iモードの開発チームの一人である栗田穣崇氏が考案した「絵文字」は、後に世界標準となり、いまや「emoji」として英語圏でもそのまま通じる日本発のグローバル文化となった。

2006年1月、NTTドコモは登録者数4,568万人超を擁する「世界最大のワイヤレスインターネットプロバイダ」としてギネス世界記録に認定されている。iモードのピーク時の契約者数は実に4,800万人を超えていた。

FOMA――世界初の3G商用サービスが日本から

2001年、3Gの夜明け

iモード登場から約2年半後の2001年10月、NTTドコモは世界に先駆けてW-CDMA方式による第3世代移動通信サービス「FOMA」を首都圏中心に開始した。当初の下り最大通信速度は384kbps。現在の5Gが数Gbpsの世界であることを思えば隔世の感があるが、当時としては飛躍的な高速化だった。

しかし、FOMAの立ち上がりは決して順調ではなかった。エリアの狭さやバッテリーの持ちの悪さから、当初はユーザーの移行が進まなかった。転機となったのは2004年の「900iシリーズ」の投入だ。端末の完成度を大幅に高めた900iシリーズは、FOMAの普及を加速させる原動力となった。

FOMAが切り拓いたもの

FOMAの登場により、携帯電話の用途は一気に拡大した。テレビ電話、カメラ付きケータイの高画質化、2004年に登場した定額制パケット通信「パケ・ホーダイ」は、従量課金で恐る恐るネットを使っていた時代を終わらせた。いわゆる「パケ死」という言葉が過去のものになっていったのも、FOMAの時代からだ。

2004年にはおサイフケータイ(iモードFeliCa)が登場し、携帯電話が財布の代わりになるという未来も現実のものとなった。2006年にはワンセグ放送が開始され、携帯電話でテレビが見られるようになった。

この時代、日本の携帯電話は世界でも類を見ない独自の進化を遂げていた。多機能かつ高性能な端末は「ガラパゴスケータイ(ガラケー)」と後に呼ばれることになるが、その進化の舞台を支えていたのがFOMAというインフラであり、iモードというプラットフォームだったのだ。

栄光と挫折――海外展開の失敗とスマートフォンの波

世界に届かなかったiモード

国内で圧倒的な成功を収めたiモードは、2002年頃から海外展開にも乗り出した。しかし結果的に、この挑戦は実を結ばなかった。

欧州各国のキャリアと提携してサービスを導入したものの、多くの国で普及は進まなかった。イギリスでは約25億円の投資に対してユーザーはわずか26万人にとどまった。数少ない成功例であるフランスのブイグテレコムでも、同社のiモード本部長が成功の秘訣を「ドコモに学べ、の一言に尽きる」と語ったように、日本のモデルを忠実に再現できたケースだけがかろうじて成果を出せた。

日本では通信キャリアが端末の仕様を決め、メーカーに製造させるという垂直統合モデルが機能していたが、海外ではキャリアと端末メーカーの関係性がまったく異なっていた。iモードの「エコシステムごと輸出する」という発想は、海外の商慣行とは噛み合わなかったのだ。

iPhoneの衝撃と「ガラパゴス」の終焉

2007年、Appleが初代iPhoneを発表。2008年にはiPhone 3Gが日本でも発売される。PC向けのウェブサイトをそのまま閲覧でき、App Storeで自由にアプリをダウンロードできるスマートフォンの登場は、iモードの「閉じたプラットフォーム」としてのモデルを根底から揺るがした。

それでも、iモードの契約者数は2010年頃まで約5,000万件規模を維持し続けていた。スマートフォンへの移行は緩やかだったが、確実に進行した。2015年にP-01Hを最後にiモード対応の新機種は発売されなくなり、2019年9月30日にはiモードの新規受付が終了。そして2026年3月31日の「完全終了」を迎えることになる。

2026年3月31日に何が起きるのか

「圏外」になるだけでは済まない

FOMA終了後に起きることは、単に電波が届かなくなるということだけではない。

2026年4月1日以降、FOMA契約のまま放置した場合は自動解約となる。電話番号を維持したまま4G/5Gに移行するには、3月31日までに手続きを完了する必要がある。一度自動解約されると、元の電話番号に戻すことはできない。

さらに注意すべきは、4G対応端末でもVoLTE(Voice over LTE)非対応の古い機種を使っている場合、音声通話ができなくなるという点だ。緊急通報(110番・119番)も利用不可になるため、命に関わる問題でもある。

NTTドコモの公式情報によれば、利用できなくなるFOMA機種は423機種、一部機能が制限される4G機種は245機種にのぼる。終了する料金プランは124プラン、終了するサービスはiモードメールやiMenuなど13サービスだ。

法人利用への影響も無視できない

見落とされがちなのが、法人向けの影響だ。FOMAの通信モジュールは、飲食店のバーコードリーダー、ガスや電気の検針器、産業機械など、さまざまな法人向け機器に組み込まれていた。ドコモがauやソフトバンクよりも3Gサービスを長く維持してきた理由のひとつが、こうした法人需要への配慮だったとされる。

3キャリアの3G終了スケジュール

日本の大手3キャリアの3Gサービス終了を時系列で整理すると、以下のとおりだ。

キャリア 方式 3G終了日
KDDI(au) CDMA 1X WIN(CDMA2000) 2022年3月31日(終了済み)
ソフトバンク SoftBank 3G(W-CDMA) 2024年4月15日(終了済み)
※石川県のみ2024年7月31日まで延長
NTTドコモ FOMA(W-CDMA) 2026年3月31日

※楽天モバイルはサービス開始当初から4G/5Gのみの提供のため対象外。

ドコモの終了をもって、日本国内の3G回線は完全に消滅する。

iモードとFOMAが遺したもの

スマートフォン時代の「原点」

iモードはよく「ガラパゴス」の象徴として語られるが、その評価は一面的すぎるだろう。

携帯電話のボタンひとつでインターネットにアクセスできる仕組み。コンテンツプロバイダが少額課金でサービスを提供できるプラットフォーム。Java対応アプリ(iアプリ)によるゲーム配信。これらはすべて、後にAppleのApp StoreやGoogleのGoogle Playが実現したモデルの先駆けだった。

夏野剛氏は「iモードがなければスマホは誕生しなかった」と述べている。これは自画自賛ではなく、実際にGoogleやAppleがiモードのビジネスモデルを研究していたことが複数の証言から明らかになっている。iモードは「失敗した過去の遺物」ではなく、スマートフォン時代を準備した「実証実験」だったというべきだろう。

あの小さな画面に詰まっていた記憶

着メロをダウンロードするために公式サイトを巡回した夜。通学中の電車でiアプリのゲームに夢中になった朝。好きな人からのメールに、小さな液晶画面が光った瞬間。

iモードとFOMAは、技術やビジネスモデルとしてだけでなく、何千万人もの日常の記憶と結びついている。それは冷たい数字では測れない、確かな価値だ。

2026年3月31日、電波は止まる。しかし、あの時代に生まれたものが消えるわけではない。絵文字は世界の共通言語になり、モバイル決済はさらに進化し、スマートフォンという「使うケータイ」は人類の生活を根本から変え続けている。

iモードとFOMAが蒔いた種は、形を変えながら、いまも確かに実を結んでいる。


FOMA契約者が今すぐ確認すべきこと

現在もFOMA契約を利用中の方は、2026年3月31日までに以下の対応が必要だ。

1. 自分の契約状況を確認する
My docomoや請求書で「FOMA」「iモード」の記載がないか確認する。「タイプSS」「タイプM」などの料金プラン名はFOMA契約の可能性がある。

2. 4G/5G対応の料金プラン・端末に変更する
ドコモショップ、ドコモオンラインショップ、またはインフォメーションセンター(ドコモ携帯から151、一般電話から0120-800-000)で手続きが可能。

3. 早めの行動を
終了間際はショップの混雑が予想される。FOMAからの契約変更者向けの割引施策も用意されているため、余裕を持った手続きを推奨する。

※本記事は2026年2月時点の情報に基づいて執筆しています。最新の情報はNTTドコモ公式サイト「『FOMA』および『iモード』サービス終了のご案内」をご確認ください。

記事提供:デジタルガジェット

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