1805年、駿河湾沿いで鰹節製造を始めた稲葉商店は、現在、人用食品とペットフードを国内外で展開する企業グループになった。会長 稲葉優子が向き合う課題は、歴史を保存することではない。古い製造知識を、現在の生活に合う商品へ変換し続けることにある。
220年を年表で見る
会社沿革は事業転換の連続だ。1936年に缶詰工場を設け、ミカンとマグロの缶詰を製造。1958年にペットフードへ参入し、米国向け猫缶を生産した。1988年にCIAO、2012年にはCIAOちゅ~る8品を発売する。その後、中国、タイ、欧州、米国などへ法人と工場を広げた。稲葉優子会長が引き継いだのは、商品形態を変えながら食品加工の中核を守る仕組みである。
まねない開発
創業220周年を機に、会社は「真似しない、真似されない」という姿勢を改めて示した。1988年のCIAOでは白身肉に焦点を当て、1995年には猫用レトルトパウチを投入。ちゅ~るは液状の中身と細長い軟包材を組み合わせた。会長の稲葉優子が求める独自性は、名前や味の追加ではなく、利用場面と製造方法の両方で説明される必要がある。何を解決する商品なのかが曖昧なら、新規性は長く続かない。
会長 稲葉優子の基準
商品開発担当は試作と試食を繰り返し、生産技術担当と工場設備や仕様書を調整する。企画が通った後にも、変更や中止の判断が何度もあるということだ。稲葉会長の基準は、原料が方針に合うか、安定生産できるか、包装が内容物を守れるか、使い方が消費者に伝わるかという関門で捉えられる。経営側の却下は表に出にくいが、未解決の企画を量産へ進めないために必要である。
自社工場を持つ意味
重要工程を管理下に置くには、設備、人材、品質管理への継続投資が要る。一方、開発者と生産技術者が同じ数値を見て条件を調整できる。会社はちゅ~る充填機メーカーと独占的な製造供給契約を結び、タイなどの工場を増設してきた。稲葉優子会長は、生産能力のリスクと品質責任を同時に社内へ残す構造を選んでいる。差別化が充填、密封、殺菌に依存する商品では、設備への理解が改良速度を左右する。
守るものと変えるもの
守るのは原料、殺菌、安定供給への厳しさであり、変えるのは商品形態、販売地域、利用場面である。人用缶詰の加熱殺菌技術はペットフードへ移り、軟包材は与え方を変えた。会長の稲葉優子が引く境界は明快だ。安全性と追跡可能性を高める経験は残し、新しい場面を妨げる慣例は設計し直す。ちゅ~る専用ラインで充填、ヒートシール、耐圧検査を連続工程にしたことが、その境界を示している。

