ABCラジオ「上方落語をきく会」インタビュー<桂 南天>(聞き手:伊藤史隆)

朝日放送ラジオ株式会社のプレスリリース

1月30日(土)開催の第119回 ABCラジオ「上方落語をきく会」。
今回の夜の部はABCラジオの番組でおなじみの落語家の競演会です。
落語にラジオにと勢いに乗る桂南天さんを始め、個性派が揃い、注目を集める平成6年入門組の林家菊丸さん、
桂吉弥さん、落語以外でも多彩に活躍する笑福亭鉄瓶さんが登場します。
この会のトリ、そしてこの日の大トリを飾る桂南天さんに伊藤史隆アナウンサーがお話を伺いました。

 

桂南天(右)、伊藤史隆(左)桂南天(右)、伊藤史隆(左)

〇ラジオは優しい気持ちで

伊藤史隆(以下、伊藤) 
南天さんはABCラジオ「ドッキリ!ハッキリ!三代澤康司です(ドキハキ)」の木曜日のパートナーをつとめていただいております。番組も絶好調ですね!

桂南天(以下、南天) 
絶好調で楽しく、楽しくやらしていただいております。綿密なる台本の上でおしゃべりさせていただいております!(笑)

(伊藤) 1年ほどたってしまったコロナ禍の中のラジオでお話いただいている時の心持というか、心根はいかがですか?

(南天) これはもう、前から変わらないんですけど、できるだけリスナーのみなさんにほがらかな優しい、尖らない気持ちでいていただけるようなおしゃべりをしたいなぁと。それは「ドキハキ」に出していただき始めた時からずーっと一貫して思い続けていることです。そやから、僕の心の中にある毒の部分、悪い部分を押し殺して、ずっとやらしていただいています(笑)。

(伊藤) でも時折ね、ちょっと世の中にガツーンと南天さんが怒っている所なんか、私は好きですけどね(笑)。

(南天) ありがとうございます(笑)。元々あまり怒らないタイプではあるんですけどね。
特にまたコロナになって街の中が尖りがちなんで、できるだけ穏やかにおれるようにおしゃべりさせていただているつもりです。

(伊藤) そうですよね。この世の中になってラジオを大切に思ってくださる方が実際、データとしても増えているっていうこともありますんで、ABCラジオを通じて、みなさんに心の中が穏やかになっていただけると思いますね。

(南天) 考えなあかんことはもちろん考えなあかんのですけど、やっぱり、そういう優しい気持ちでおれた方がいいですからね。

 
〇芸歴30年で伝統ある会の大トリを

(伊藤) そんな南天さんでいらっしゃいますけど、いよいよ迫ってまいりましたABCラジオ「上方落語をきく会」でございます。ご準備はいかがですか?

(南天) 最後のトリでしょ?

(伊藤) いわゆる大トリでございます。

(南天) この「上方落語をきく会」の大トリいうのは、ちょっとこれはえらいことやな…と思てます。ほんまに。

(伊藤) 南天さんは1991年に当時の桂べかこさん、桂南光さんの下に入門されてこごろうさん。ですから、ちょうどこの春が来ると芸歴30年ということになるんですが?

(南天) そう言われるとそうなんです。30年!

(伊藤) その南天さんが初めて「上方落語をきく会」にご登場いただいたのが2012年でございます。この年はABCの創立60周年ということで、1週間ぶち抜きで「上方落語をきく会」をやったんですけど、この時に「代脈」で初めてご出演をいただきました。

(南天) もっと前から出てるイメージやったんですよね。

(伊藤) その後、あくる年に「桂南天」とお名前を変わってらっしゃいまして、「壺算」でございます。それからその次の年、2014年は「動物園」です。これは三代澤さんが放送でもおっしゃっていますが、伝説の「動物園」!

(南天) 「ドキハキ」の中で「動物園」を三代澤さんが押してくれてはったんです。この時の録音があったら、CDにして出したいくらいです。えげつない受けてますよ。この「動物園」ね、下駄はかしてもろた上に、ええお客さんやから、すごい「動物園」になっていたと思います(笑)。

(伊藤) 会場がひっくり返るとはまさにこのことでね。

(南天) 僕の中でも想い出深い「動物園」ですね。

(伊藤) その後、2015年、このあたりは毎年のように出演していただいておりまして、シアタードラマシティで「茶の湯」。そして2016年、28年ぶりにこの企画を復活させました「南天しごきの会」(※参照)。ネタおろしを生放送で3つ!

(南天) これはすっごいことですよね…。このお話いただいた時に身震いがしましたね。おそろしいことですよ。800人からいてはるお客さん、それも入場料を5000円くらいいただいてます。そのお客さんの前で3席生放送! ほんまはお断りしたいようなことですけど。

(伊藤) ハハハ!

(南天) その栄誉というか、やりがいというか、体が鳥肌たってぶるぶるってなりましたね。すごいやりがいありました。

(伊藤) 「秘伝書」「立ち切れ線香」「火焔太鼓」と演じていただいて、終演しましてね。その時代は打ち上げも自由にできましたんで、その時の南天さんのホッとしたお顔はいまだに忘れられません。

(南天) あの日は本当に忘れられない1日です。嬉しかったのは同期の林家花丸さんが出番じゃないんやけど、「大丈夫か、南天ちゃん」と言うて来てくれて。普通ならね、同期の噺家って悔しいと思うんですよ。僕がこんなええところでやらしてもらうの。それをわざわざ来てくれて。心強かったです。想い出深いですわ。

 

 
〇師匠からのメール

(伊藤) 私はあの日の想い出で言いますと、打ち上げでほっとした表情でいらっしゃる桂南天さんの携帯電話がプリプルっとなりまして、これはメールだったんですけど、南光師匠からメッセージが来たんですよね?

(南天) よう覚えてはりますね。

(伊藤) あれは忘れられないです。

(南天) よかったっていうのをね、うちの師匠が書いてメールくださって。

(伊藤) しかもね、師匠が上からという感じじゃなくて、私とあなたというような主語の使い方で、「あなたの落語には本当にもう感動した」というようなことを切々とメールで送ってくださったんですよね?

(南天) そうなんですよ。うちの師匠はね、「一噺家」としてちゃんと見てくださるのがすごく嬉しいんですよね。たいがい、「うちの弟子もよくやっていると思います」とか、「見てやってください」という言い方ですよね。もちろん僕はずーっと弟子だからずーっと「師匠」と思って、そういう過ごし方してるんですけどね。それはありがたいですよね。

(伊藤) しかもですよ。あの「しごきの会」ですよ。弟子入りした頃の内弟子修業のお話や、すごく厳しい師匠だったけど、こういう優しさがあってということをマクラでたっぷりお話しいただいて、3席おやりになったんですよね?

(南天) マクラ、そうでしたね(笑) 内弟子修業中のいろんな失敗話ね、怒られた話 (笑)

(伊藤) で、南光師匠からそんなメールが来てたんで、私自身がちょっと感動しましてね。

(南天) あれは本当に嬉しかったですね。

(伊藤) やっぱり、一生懸命やってらっしゃる噺家さんっていうのはこういう世界なんだって、僕思いまして。

(南天) 師匠がすごく心配してくださって。「そんなん、受けて大丈夫か」というのんと、「先にどっかでやったらどうや」と言うてくれはったんです。そやけども、うちの師匠とか、(大師匠の)桂枝雀師匠が「しごきの会」をされた時分はSNSもなにもないですから、たぶん大丈夫だったと思うんですけど、今はもうそんなことしたらすぐに「南天ここでやってたで」ってなりますから。それはちょっともうアカンと。

(伊藤) ほんとだ(笑)!

(南天) 絶対せずに。

(伊藤) いわゆるガチで! 本当のネタおろしで! その会のあとも2017年「代書」、2018年は「行き倒れ」、東京で言う「粗忽長屋」ですね。これをおやりになって。

(南天) この時は銀瓶兄さんの「しごきの会」ですね?

(伊藤) そうです。銀瓶さんもね、ちょっと微妙な顔をしてらっしゃいましたよ。銀瓶さんが「3席やろう」っていう時に、南天さんがどっかんどっかん受けてたんで(笑)。

(南天) そうですか(笑)。あの時の銀瓶兄さんもすごかったですけどね。

(伊藤) それから、「崇徳院」を2019年、去年は「くっしゃみ講釈」を演じて頂いて、さあ、今年いよいよなんですけれども、今回はどんな感じのネタを?

(南天) これはね、吉弥さん、菊丸さんのネタが出そろってから考えた方がいいかなと思ってます。あと、会場の空気。半数にお客さんを減らしてますでしょ? それをどうするかですね。きゅっといくのかドーンといくのか、どっちにしようかなと今、悩んでいるところなんです。ほんまはドーンで行きたいんですけど。その前に3席ネタおろしをする桂りょうばくんがいるので、もちろんそれに被らないネタじゃないといけないので、考えどころだなと思っているんです。

〇芸歴30年の思い

(伊藤) 桂南天さんは平成3年ご入門で、この3月にちょうど芸歴30年ですね。

(南天) おかげさまで師匠のところに入れていただいて30年です。あっという間でしたね。はい。

(伊藤) 30年前に星雲の志を持って、当時のべかこさんのもとに来られて。

(南天) お線香みたいな志を持って(笑)!

(伊藤) その時の思い、そして今、自分がやってらっしゃる落語、噺家人生はいかがですか?

(南天) いやー、全然いってないですね。入門した時は、もっと派手なことを思ってました。

(伊藤) 例えば?

(南天) ぎゃんぎゃん受けて、ガッポガッポもうけて、女の子にキャッキャ、キャッキャ言われて!

(伊藤) ハハハハ!!

(南天) でっかい、でっかい家に住んで、大スターになってるつもりで入門してました。そんな世界じゃなかったですね(笑)。

(伊藤) でも、芸に厳しい南光師匠の下で一生懸命研鑽されて、歩んできた道はいい道だったわけでしょ?

(南天) はい、そうです。もちろんね、自分が30年過ごさせてもらった時間は僕にとってはとってもありがたい素敵な時間でしたね。真面目なことでいうと、芸的にももっともっとやってるつもりでしたね。入門する時は、30年もたったらそらもう無双というか、そういう状態になるんやろうなと思いながら入門したんですけどね。なかなかそんな甘いもんじゃないですよね(笑)。

(伊藤) それはご謙遜もおありでしょうけども。平成3年入門組はご同期もたいへん頑張ってらっしゃいますよね?

(南天) はい、みな、頑張ってます。笑福亭生喬さん、桂文三さん、林家花丸さん。ほかにも笑福亭遊喬さん、笑福亭喬楽さん、もう一人、林家そめすけ君。みなさん、平成3年入門です。生喬、南天、文三、花丸は4人で「出没!ラクゴリラ」っていう落語会を25年以上、ふた月にいっぺん切らさずにずっとやってるんです。これはありがたいことです。僕はずぼらなんですけど、まわりが頑張ってはるんで、そないむちゃくちゃ怠けずにすんでるという感じですね。

(伊藤) ある会でね、笑福亭仁智会長が本当にたいへんな世の中で、落語会も順風とは言えないけど、若いグループ、平成3年組と平成6年組にはリーダーとして頑張ってもらいたいとおっしゃってたそうですよ。

(南天) ほんまですか‼ めっちゃめっちゃ頑張りますよ、仁智師匠が言うてくれてはるんやったら! 生喬、文三、花丸にも伝えますわ。嬉しいなー。ぐっと燃えてきました。やりますよ。めっちゃめっちゃやりますよ!

 

〇これからの桂南天

(伊藤) 「30年」はある意味、一つの区切りですけど、今後の噺家・桂南天、ラジオのパーソナリティーの桂南天はどんな風にありたいと考えてらっしゃいますか?

(南天) 落語は「とにかく行く」っていうか。番組の中で「今年の一文字をどの字にしますか」と言われた時に、「『邁進』の『邁』でいきます」と言うたんです。今まで僕は「まぁまぁこんな感じか」でやることもあったんですよね。それをちょっと減らしていこうかなと思って。ちょっとじゃないな。どーんと減らしていくというか、ガッガッガッとやる、やる、やる! 今年に入ってまだわずかですけど、今、かなり心がけて高座をつとめてるんで、これをもっともっと突き詰めていく。落語は優しくやるんですけど、それを深めていくというか。抽象的で申し訳ないんですけど、「やる!」ということですね。

(伊藤) すごくニュアンスは伝わります。

(南天) それを今、すごく思っています。去年の暮れにものすごく後悔する高座を1回やってしまったんです。自分の中の予定調和というか、「このくらいのキャパにこれくらいのお客さんで、前の人がこれくらい受けてたらだいたいこれくらいの高座になるやろうな。だから、それくらいかな」という落語をやってしまった時に、それくらいの結果が出てるんですけど、いやいや、もっと僕には能力があるし、お客さんも実はもっと笑う可能性があったのに、僕が勝手にこれくらいかなと線を引いて、そこまでの高座をやってしまったことがすごく、悔しいというか。帰りしなに嫌な気持ちになって。あ、こんなんじゃないんだな。本当は、僕はこんな性格じゃない。もっとがっつくというか、とりにいくというか。そういうことをすごく感じたんでね。

(伊藤) お客様にはわからないし、ひょっとしたらほかのどなたもわからないけど、南天さんの心の中の叫びがその時あったわけですね。

(南天) めちゃめちゃありました。今年最後になんという…。でも、ありがたいです。それで、今年は今のところはガッといけてるんで。だから、今回、僕の前で菊丸さんと吉弥さんが思いっきりやってほしいんですわ。めっちゃめっちゃおもしろいとかめちゃめちゃええ落語をやってくれたら、ガッと行きやすいんです。

(伊藤) それを聞くと、ますます1月30日が楽しみになってまいりました! じゃ、いい意味でプレッシャーをかけさせていただきます。

(南天) どんどんかけてください!

(伊藤) 伝統のABC「上方落語をきく会」の今回、大トリの桂南天さん!

(南天) つぶれるようなシナモンとシナモンが違います!

(伊藤) ということで、大いに期待させていただいていますので、よろしくお願いいたします!

 

(2021年1月14日 ABCスタジオ)
構成=日高美恵 撮影=石野魁盛

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桂南天(かつら・なんてん)

1967年12月27日生まれ。大阪府枚方市出身。91年に桂べかこ(現・桂南光)に入門して「こごろう」。2012年に「二代目桂南天」を襲名。

※「しごきの会」=若手の落語家に1日3席をすべてネタおろしで演じてもらい、その間に師匠や先輩が出演し、得意ネタを披露する「上方落語をきく会」の名物企画。1972年から1988年までの間に計11回開催され、南天の大師匠・桂枝雀(当時は桂小米)が第1回、師匠の桂南光(当時は桂べかこ)が第9回に出演。桂南天は2016年に28年ぶりに復活したこの企画に挑んだ。

 〇今年も「上方落語をきく会」をラジオで完全生中継!(12時30分~21時)
「ABCラジオ 上方落語をきく会」
放送日:1月30日(土)12時30分~21時
【昼の部】
https://radiko.jp/share/?sid=ABC&t=20210130123000
【夜の部】
 https://radiko.jp/share/?sid=ABC&t=20210130175500

 

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