ABCラジオ「上方落語をきく会」インタビュー<桂 りょうば>(聞き手:三代澤康司)

朝日放送ラジオ株式会社のプレスリリース

1月30日(土)開催の第119回 ABCラジオ「上方落語をきく会」。今年の「上方落語をきく会」は昼夜で公演が行われます。昼の部は「上方落語をきく会」の名物企画「しごきの会」です。今回、生放送で3席の落語のネタおろし(初演)に挑むのは桂ざこば門下の桂りょうばさん。桂南光さんと笑福亭松喬さんが“しごき役”として登場します。三代澤康司アナウンサーが大舞台を目前にしたりょうばさんにお話しを伺いました。

 

〇楽しみにしている自分がいる

三代澤康司(以下、三代澤) 令和3年1月30日の「上方落語をきく会」、こちらの昼の部「しごきの会」でしごかれます、桂りょうばさんにお話を伺います。よろしくお願いいたします。

桂りょうば(以下、りょうば) よろしくお願いします!

(三代澤) 近づいてまいりました。

(りょうば) はい、そうですね。なにもかもがもう手探りというか、当たって砕けろ状態ですね、今のところは。

(三代澤) 「しごきの会」は第1回が1972年。いわゆる若手の人で、テレビやラジオでも名前は知っている。でも、落語にも一生懸命頑張ってもらおうという思いから、その人にネタおろしを3席してもらい、有名な大先輩たち、大師匠たちが「しごく」という。日本全国見てもこんな落語会ってなかったと思いますよ。

(りょうば) そうでしょうね(笑)。 第1回はうちの父親の桂枝雀ですし、ファンからすれば、これはすごいいい企画だなとずっと思ってたんです。やるまでは(笑)!

(三代澤) 落語家さんにとって、このネタおろしっていうのはどういうもんなんですか?

(りょうば) そうですね。僕もまだキャリア6年目ですから、「ネタおろしします」と銘打った落語会はそんなにしてないんですけども。だいたい、ネタおろしってあまり大々的にやるもんじゃないと思うんですね、普通は。大きな自分の会の企画として「ネタおろしやります」っていうのはあると思うんですけど。たいていは先輩からネタをつけて(稽古して)いただいた、新しいネタが増えたってなったら、とりあえず、どこでもいいから準備運動的にやっていって、だんだん自分のものになっていくという。こういうところをお客さんが笑てくれはるんやとキャッチボールしながら、ネタのひとつとして成り立っていくんじゃないかなと僕は思ってるんです。

 

(三代澤) ですよね? ネタおろしというのはあくまでもネタをおろす。そこから創り上げていく、自分の持ちネタとしてしっかりしたもんに仕上げる。これが落語家さんの常識なんですが、今回、いきなり文楽劇場。しかもお客さんがいてる中で、ラジオでの生放送。とんでもない! さらにそれを3席もやるっていうね。ちょっと、おかしな次元やと思いますよ、これ。

(りょうば) ハハハハ! 僕も今度やらしてもらうんですけど、まだどっかで他人事のような気もしてるんです。若い方が3席ネタおろしやったら、途中でネタにつまったりしてもお客さんがニコニコと見て、「頑張れよっ」となると思うんですけども、まあいかんせん僕はもう48歳なんで、そんなことはできないと思うんですよね。僕の頭上に「もう一人の自分」がいつもいるような気がしてて、そうなった時に、「そんな若手の人っぽくやるとかじゃなくて、とりあえず一生懸命やったらええがな」って。この会は第1回目から11回目までって若手の方がやってはりましたけど、2016年の第12回目から再開して桂南天師匠、第13回目は笑福亭銀瓶師匠と中堅の方がやられてる。僕はまだまだキャリアは浅いんですけど、年齢はいってる。だからどんな風になるんだろうなって楽しみにしてる自分がここ(頭上)にいるっていう感じですね。

〇父、師匠に続いて挑む

(三代澤) さて、これまで13人の人がしごかれてきました。

(りょうば) はい。

(三代澤) で、りょうばさんはこの「上方落語をきく会」の長い歴史の中でも14人目のしごかれる人なんですよ。で、今までしごかれてきた人っていうのはほんとに、後にも有名になり、人気が出て、すごい実力を持つ、そういう噺家ばっかりなんですが、唯一、りょうばさんはお父さんも、そして師匠もしごかれたっていう、稀有な存在ですよ。

 

(りょうば) そうですね。これはやっぱり、この「上方落語をきく会」が歴史ある会っていうことやからこそ成り立ったと思うんですよね。歴史があるので父親もやってたり、うちの師匠もやってはったりとかするっていう。そこに入れていただくのはすごくありがたいですし、自分の中に「おもしろいがな」っていう落語ファンのもう一人の自分もいてると思うんですよ。

(三代澤) お父さんの枝雀さんが小米時代の1972年、これは第1回でございました。この時は「夏の医者」「ふたなり」「寝床」をネタおろし。当時33歳やったそうです。そしてざこは師匠は1975年。この当時、ざこばさんは「朝丸」という名前でしたけど、27歳で「みかんや」「宿屋仇」「天神山」、これをやりはったんですね。

(りょうば) それこそ、のちに代表作となる3席があるわけですよね? ネタおろしということは初めて店頭に商品として並べた瞬間ということになると思うので、これを見に行かれていた方はすごい貴重なところにいてはったんじゃないかなって思うんです。

〇3席のネタ選びは自分で

(三代澤) さあ、そんな中、いよいよ迫ってまいりましたが、何のネタをやりはるか、教えてもろてもよろしいですか?

(りょうば) はい、大丈夫でございます。すみません、さっきまでどっちかいうたら落語ファンの自分でしゃべってた感覚があるので、今ふっと我に返りまして(笑)。まずは「普請ほめ」、次が「遊山船」、で「天神山」。この3席をやらしていただこうと思っています。

(三代澤) どういうところからこのネタを選びはったんですか?

 

 

 

(りょうば) そうですね…。それこそ、3席同時にネタおろしっていうことはないんです。ネタをつけていただく時は先輩なり師匠方にお願いして、つけていただくわけなんですけども、ある師匠につけていただいたネタを「もうやっていいよ」と言われたら、次のネタにいける。ネタを同時進行でいろんな師匠や先輩方に教わるのはルール違反というか、マナー違反なんです。

(三代澤) はー! はいはい。

(りょうば) ですので、僕もどうしようかなと思いまして。ネタもそうですし、お願いする時に実は3席同時にネタおろししなきゃいけない、日にちも決まっております、それでもよろしいでしょうかっていうお許しを得なきゃいけないと思ったんです。そんなんも含め、これまでのネタの資料もいただきまして、父親は桂枝雀、師匠はざこばでございますので、そういうところから考えていくと、「天神山」というネタはうちの父親が得意としておりましたし、うちの師匠もこの「しごきの会」で1975年にされてるんです。

(三代澤) そうですね!

(りょうば) 「天神山」というのは僕、すごい大好きなネタなんですけども、自分の中では聞くのは好きやけど、やるのは難しいやろうなというのがずっとどこかにあったと思うんです。でも、聞いて楽しいものやったら、いずれやりたいんちゃうのんって言う自分もいてたので、やらしていただきたいって、まず頭に浮かんだんです。

(三代澤) はい。

(りょうば) で、「遊山船」はうちの師匠とかすごく得意とされてはります。ある意味ドタバタでおもしろいですし、夏の大川の夕涼みに行くというその感覚、頭の中に情景が浮かぶ。「天神山」は春のお噺で、「遊山船」は夏のお噺なので季節がバラバラになるんですが、今、コロナの影響で外に出ることも少ないですし、お祭りや夕涼みに行くのも憚られる世の中なので、せめて落語の世界の中だけでも、お客様に感じていただければありがたいかなと思って。そして「普請ほめ」。最後まで全部やれば「牛ほめ」になるんですが、これはいわゆる落語の基礎中の基礎というか。前座の方やったらほとんどやりはるだろうし、僕はたまたま持ってなかっただけなんですよ。これはいつかやりたいなと思っていました。これ、本当に誰にも相談せずにネタを決めさせていただきました。ほかにも候補はあったんですけども、ほかのネタと被るようなネタをそいでいったら、この3席が残ったということです。

(三代澤) なるほど、なるほど! あのね、2016年に「しごきの会」をやった南天さんはね、「あー、りょうば君やったら大丈夫でっせ」と。

(りょうば) いやいやいや!

(三代澤) 何が大丈夫かっていうと、まだネタおろしするネタぎょうさん持ってるから!

(りょうば) ハハハハ! その通りですっ!!

(三代澤) 南天さんとか銀瓶さんとかのクラスになってくると、すごく限られた数の中からネタを選ばないといけなかったんで、非常にたいへんやったらしいんです。

(りょうば) そうですね。でもやっぱり南天師匠も銀瓶師匠も今、3席のネタを見せていただいたら、代表作になってる!

(三代澤) そう、南天さんは「秘伝書」「立ち切れ線香」「火焔太鼓」。銀瓶さんは「短命」「質屋蔵」「井戸の茶碗」ですよね。

(りょうば) 今、いろんなところで、そのネタを聴かせていただいています。

〇落語への思いの変化

(三代澤) 僕もりょうばさんを子供の頃から存じてたんですけれども、子供の頃、りょうばさんにとって落語ってどういうもんやったんですか?

(りょうば) そうですね。今から思えば、もちろん家の中で落語を聞く機会はすごいあったわけですね。うちの父親が稽古してるし、毎晩、父親のテープを聞きながら寝てるような子供だったので。でも子供の頃って単純にわかりやすい、笑うシーンが好きなんですよね。

(三代澤) うーん。

(りょうば) わかりやすいダジャレやボケがあって、突っ込んで、そこでお客さんがどっと笑ってはったりするとおもしろいなって。単に笑って面白いって思うところがメインで楽しんでいたと思うんです。で、ある時から僕、まったく落語を聞かなくなった時期がありまして。今から思えばたまたま聞いてなかったんだろうなって思うんですけども、この期間があったのが今の僕を作ってるなって思うんです。で、40歳手前くらいの時に久々に落語を聞いたら、めちゃめちゃおもしろかったんですね。小さい頃に笑ってた面白さではなく、「あー、生きてるってこういうことなんやろうな」という興味深さの面白さっていうんでしょうか。僕はこの世界に入るまでは音楽やったり、お芝居やったり、いろんなことをやってた。もちろん、その時は「これがメインです」って思ってやってたんですけど、自分の中で「これがメインです」というのはないような気がするんです。今はABCさんでラジオ番組やらしていただいています。でも、これは僕の本業ではないわけですよね、ラジオは。落語が本業というのであれば。僕は今までいろんなことをやってきましたけど、いろんなことをやって、僕という人間ができてるんじゃないかなって思うんです。

(三代澤) うーん。

(りょうば) まったく別の考え方があって、それこそうちの父親みたいに落語一本で名前を売り、芸の質を高めっていうパターンもあるんですけど、逆にうちの師匠、ざこばなんかはもちろん落語はやってはりますけども、それこそテレビに出、フリートークであんだけしゃべり。僕は枝雀の息子ではあるけども、考え方とか性格的にはうちの師匠にすごく近いんじゃないかという気がするんです。改めて落語を聞いた時に、おもしろいというのはただ単に笑うだけのおもしろさじゃないんだ、うちの師匠がやりはる「子は鎹」や「藪入り」みたいな、単に笑うだけじゃなくて、こういうシチュエーションだから笑えるんだという。そこにうちの師匠がやりはると、唯一無二のあの世界観が出る。落語ってこういう面もあるんだと。もちろんうちの父親のようなストイックな面もありますけども、それとはまた別の、うちの師匠にしか出せない世界があるなって思った時に、落語ってほんとに奥深いんだなと。今までどっちかっていうと、うちの父親の面しか見てなかった落語が、あ、うちの師匠の面もあるんだって思った瞬間、落語が広がって聞こえてきて、これはやりたいなと思ったんですね。

(三代澤) なるほどねぇ。そういうりょうばさんが縁あって、今年、令和3年の1月30日にこうやって国立文楽劇場の舞台でしごかれる! これはひとつの歴史の中の1ページになりますよ。

〇やってきたことがあるから今がある

(三代澤) りょうばさんは今までいろんなことをやって来られた。特に、ミュージシャンとしてやってきた。今まで野外コンサートも含めて、ミュージシャンとしてステージに立った時、一番多いお客さんの数は何人でした?

(りょうば) そうですね。イベントですけども、横浜アリーナでやらしていただいた時は2万人くらいとか集まってはったと思うんですけど。

(三代澤) でしょ? 多分ね、上方の噺家さんの中で一番、よぉけの前で舞台立ってる人です。

(りょうば) あ、ありがとうございます(笑)

(三代澤) それは自信持って! もう何万人であろうと、揺らしてやろうというつもりで、大いにご自身の芸を見せてほしいなと思います。

(りょうば) 今の三代澤さんの一言で、あ、なるほどって僕の中でも合点がいったというか。

(三代澤) 「万」なんていう人の前でなかなかみな、やれませんから!

(りょうば) それこそ今まで自分がいろいろやって来た中の集大成というか、それがあるから今があるんだなって思うようなことができたらいいなとは思っております。

(三代澤) 最後に1月30日のお客さんへ向けての意気込みを一言、聞かせていただきたいと思います。

(りょうば) はい、3席ネタおろしということでございますので、もちろん、かつてないほどの緊張をしてるんですけども、緊張だけじゃなくて、やっぱり、もう一人の自分がちょっとでも笑うようなことができたらいいなと思います。僕はこの世界に入って一番よく思うのは、音楽やってる時って若いっていうのもあったので、「どうだ、見てくれ」みたいなのがあったんですけど、年を重ねたり、いろんなことを経験して落語家になってみますと、やっぱり自分一人では何もできないんだなというのをひしひしと感じてます。桂りょうばを知ってるとか、ちょっと聞いたろかなって言うてくださる方に対して、ちょっとでもいいので、何かひっかかりがあるようなことができればいいかなと思っております。

(三代澤) 1月30日、楽しみにしておりますので、あとひと踏ん張り、頑張ってください!

(りょうば) 頑張ります! ありがとうございました!

(2021年1月19日 ABCスタジオ)

構成=日高美恵 撮影=石野魁盛

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桂(ょうば)かつら・りょうば)

1972年3月3日生まれ。大阪府出身。役者やミュージシャンなどを経て、2015年に43歳で桂ざこばに入門。父は故・桂枝雀。

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〇今年も「上方落語をきく会」をラジオで完全生中継!(12時30分~21時)
「ABCラジオ 上方落語をきく会」
放送日:1月30日(土)12時30分~21時
【昼の部】
https://radiko.jp/share/?sid=ABC&t=20210130123000
【夜の部】
 https://radiko.jp/share/?sid=ABC&t=20210130175500
 

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