朝日放送ラジオ株式会社のプレスリリース
「上方落語をきく会」は、1965年(昭和30年)12月に第一回の公開録音を行って以来、現在まで続く上方落語で最も長い歴史を誇るイベントです。これまでに「1080分落語会」や」「しごきの会」など、ファンの間で後世の語り草になる数々の高座を生みだしてきました。
今回は、通算120回目、さらにはABCラジオの創立70周年記念と銘打って、JR大阪駅そばのグランフロント大阪・北館にある「ナレッジシアター」から昼夜の二公演を行います。
12時半開演の昼の部にご出演の皆さんは、笑福亭松喬さん、桂南天さん、笑福亭鉄瓶さんに、笑福亭羽光さん、桂小鯛さん、笑福亭智丸さん。
このほど令和3年度の文化庁芸術祭・大衆芸能部門で見事、大賞に輝いた松喬さんと、南天さん、鉄瓶さんの「上方落語をきく会」ではお馴染みのメンバーが登場。
そして、昨年、東京の落語芸術協会で真打に昇進したばかりで落語ファンの皆さんの間では「成金」メンバーとしてもお馴染みだった羽光さん、さらには、昨年秋の上方落語若手噺家グランプリで見事優勝を果たした小鯛さん、仁智一門の注目株・智丸さんが登場します。
「70歳を目標に、頑張ってしゃべらせていただきたい」
今回、当日の総合司会であり、ABCラジオの落語番組「日曜落語 なみはや亭」で席亭(案内役)をつとめる伊藤史隆アナウンサーが、昼の部にトリで出演される笑福亭松喬さんにお話しを伺いました。
〇ハメモノなしで臨んだ還暦独演会
伊藤史隆(以下、伊藤) 松喬さん、改めまして「令和3年度文化庁芸術祭賞」大衆芸能部門の大賞受賞おめでとうございます。
笑福亭松喬(以下、松喬) ありがとうございます。
(伊藤) 芸術祭賞の大賞は、去年の秋に行われました「笑福亭松喬還暦独演会」における「らくだ」の話芸に贈られたということなんですけども、受賞を聞いての思いはいかがでしょうか?
(松喬) そうですね。あまり話したことがなかったのですけど、実はこの会はコンセプトがございましてね。「らくだ」、それから「抜け雀」、「泥棒和尚」というインド仏教から用いた新しい作品で、ハメモノがいっさい入らない3席を演らせていただきました。でね、史隆さん、上方落語って特長が見台、膝隠しとそれからハメモノでしょ?
(伊藤) そうですね。
(松喬)それが東京と違うところで、上方落語の“売り”なんですよね。ところがね、ハメモノって、よぅできてますねん、やっぱり。ドラマで言うたらBGMですねん。例えば伊藤史隆監督がクリスマスのドラマを作ったら、山下達郎の「クリスマス・イブ」さえ流しといたら、みんなきれいにおさまるじゃないですか? それを上方落語は伝統的にやってきたんです。ハメモノってきっちりおいしいところにおいしいタイミングで、いい曲を下座のおっ師匠はんたちが弾いてくれるので、その間お客さまもそっちを聞く。噺家の話芸のそこの努力がちょっとなくなってきた100年であったような感じがするんですよ。私だけの考えかもわからないですけど。ハメモノにお手伝いいただくと、「ここはこうしゃべっといたらいいわ」みたいになってくるんです。東京でも今は「七段目」とか「お菊の皿」とかでハメモノを入れはりますけども、東京は座布団一枚、話芸一つでやってきたので、演者の話し方の工夫っていうのがあるんですよね。
(伊藤) あぁ!
(松喬) 大阪の噺家は鳴り物が鳴り出すと、すぐ平らに進んでしまうみたいなところがあるんで、それを一回、打破したいなという気持ちもあって、そういうネタ選びで、ハメモノを入れずに演らしていただいたということもあるんですよ。
(伊藤) 明かしてはいなかったけど、実はそういうところの裏テーマがこの還暦独演会にはあったわけなんですね?
(松喬) だから、しゃべり方ですよね。東京の噺家さんって落語の歴史もありますし、うまい名人がたくさんいらっしゃるんですけど、その方の独自の工夫、柳家は柳家、古今亭なら古今亭、春風亭なら春風亭っていう一門のしゃべり方がある。それと一緒で、そういう意味で、(話芸だけで)この賞をいただけたというのは非常に嬉しいし、また口幅ったいですけど、素噺でも楽しい噺って上方にもたくさんありますし、後輩たちにもハメモノに頼らなくても、自分たちの話芸でしゃべっていこうよっていうのがひとつあるかなと思うんですよね。
笑福亭松喬(左)、伊藤史隆(右)
〇端正に描いた「らくだ」で受賞
(伊藤) それだけの誓い、思いをもって臨んだこの高座で、受賞の直接のポイントになったお噺が「らくだ」であると。これはもう七代目笑福亭松喬さんにとってはたいへんに嬉しいことでしたでしょ?
(松喬) そうですね。笑福亭のお家芸でありますから。落語ファンのみなさん、「なみはや亭」をお聞きの皆さんはもうご存じの通り、これはもう、大師匠の六代目笑福亭松鶴の十八番。六代目松鶴師匠というのはものすごい迫力で、豪快で、ピッチャーでいうと160キロの球を投げれる人。速球でがーっ、がーっと行ける人ですねん。でも我々はそれできませんねん。160キロ出ませんねん。そうなってきた時に80キロ台のカーブを混ぜなあかんわけですわ。そうやないと、落差がないわけです。私は、160キロは出ないですよ。145キロくらいです。だから80キロ台のカーブを投げるように工夫した「らくだ」やと思います。
(伊藤) 僕、この高座も大阪松竹座で拝見していましたけど、どこがカーブだったのかなぁと思いながら…。でも、当代の松喬さんらしさがすごくある中での「らくだ」でしたもんね?
(松喬) なんぼ無理したって、145キロしか出ないですから、そこをがーっと追い詰めるよりも、カーブを投げようということですよね。端正な、端正な「らくだ」をやったような記憶がありますね。六代目みたいに「勢いで」とか、鶴瓶師匠の「らくだ」はキャラクターで行くんですけど、僕は端正に描いていかないと、と。自分の中で考えたのがそういうことです。
(伊藤) 先代の六代目松喬師匠の「らくだ」は160キロタイプなのか、145キロタイプだったのかは、当代はどう見てらっしゃるんですか?
(松喬) そうですね。どっちかということ、うちの師匠のも端正でした。計画的な「らくだ」でした。こっからスタートして、こっからこうなってという。うちの師匠もまず落差をつけるにはーというところもありますね。
(伊藤) それは、六代目松喬師匠にとっては親である六代目松鶴師匠を見てて、六代目松喬師匠もやっぱり、七代目松喬さんと同じような思いで松鶴師匠を見、ある意味悩み、でも取り組むんだというネタだったわけですね?
(松喬) そうですよね。「らくだ」ではないですけど、うちの師匠はわりとそういうところが始めからある人で、あの、おやっさん(松鶴)のその勢いじゃない部分を何とかしようと、端正に描くところは描いてましたから。それを私が受け継いだのかもわかりません。その落差を見せる工夫は先代譲りかもわかんないですね。
(伊藤) 野球の例えに戻るなら。160キロ投げるピッチャーが毎年20勝するかってそうではありませんし、145キロとコーナーワークで巧みに投げるピッチャーが優勝投手になるっていうことも実際たくさんあるわけで、そこが野球のおもしろさであり、落語の面白さですよね。
(松喬) そうです、そうです。だから浄瑠璃の文楽で言うと、竹本住大夫師匠が160キロ豪快に投げる太夫さんで、「みながみな、160キロ投げられへんねよ」とアドバイスするのが三味線さんですねん。これは(文楽三味線の)鶴沢清介師匠にお聞きしたんですけど、「160キロ、無理せんでえぇ。出ぇへんから。それやったら、こっちの音をしっかり出しなさい」というのは文楽、浄瑠璃の世界では三味線さんがアドバイスしはるみたいですね。浄瑠璃の世界でも一緒やなと思ったことがありますね。
(伊藤) うわー、そんなお話を伺うと、この令和3年度の芸術祭大賞は先代も、六代目松鶴師匠もきっとあちらから喜んで拍手を送っておられるでしょうね!
(松喬) どうでしょう。六代目なんかから見たら、おとなしい「らくだ」やなって言われるかもわかんないですけどね。わしのはもっと豪快やって。
〇トリには嬉しさと感慨深さが
(伊藤) そんな笑福亭松喬さんなんですが、「第120回上方落語をきく会」の昼の部のトリでご登場いただくということになりまして、改めまして、どうぞよろしくお願いいたします。
(松喬) こちらこそ、お世話になります。
(伊藤) 松喬さんには入門12年目の1994年、「第90回上方落語をきく会」に「ろくろ首」で初出演をしていただきまして。回を重ねて今回で、ちょうど20回目のご登場。2012年からは11年連続のご出場と、NHKの「紅白歌合戦」なんかだったら話題騒然というくらいの連続出場ということです。これまでも、いろんな落語を演じていただきました。最近で言いますと、新しく手掛けた山本周五郎原作のー。
(松喬) 「泥棒と若殿」をやりましたね。
(伊藤)どうですか。この会の空気であったり、思いであったり、思い出であったりは?
(松喬) 「上方落語をきく会」って言うたら、それぞれの師匠連がね、どかっとおすわりになって、私らが前座または真ん中くらいでご陽気に出るという会だと思ってたのがですね、還暦の年、年齢もあるんですけど、こうしてトリにすわらしていただくというのは、もちろん嬉しいですけど、感慨深いものがありますねぇ。こういう立派な会は緊張しますね。
(伊藤) 3月4日のお誕生日をちょっと越えたところで会がやってきますので、松喬さんはこの時61歳。夜の部のトリは桂吉弥さんにお願いしておりまして、51歳。ABCラジオは70周年でしてね、こんなキャッチフレーズを考えまして、「70年ありがとう。100年しゃべるで!ABC!」。この思いをちょっとこの会にも乗せましてね。もちろんこれまでの大先輩、みなさん方の落語への思いであったり、その落語に対しての感謝の思いを込めながら、これから80年、90年、100年、みなさんに聞いていただく上方落語をイメージしながら、今回、会を作ろうと思いまして。ですから松喬さんが最年長のご出演者でいらっしゃるんです。
(松喬) そうなんですよね。ABCラジオが100年になれば僕は91歳ですよね?
(伊藤)ぜひご出演をお願いしたいです。
(松喬) 私もいてないけど、スタッフもみないてないと思いますよ(笑)。
(伊藤)スタッフはいないかもしれないけど、松喬師匠には人間国宝となられて、ぜひご出演いただきたいですよ。
(松喬) ありがとうございます。桂紗綾さんも定年になってるんと違いますのん?
(伊藤) それくらいかもしれないですね(笑)。松喬さんにご出演いただく昼の部で言いますと、笑福亭智丸さん、桂小鯛さん、東京から笑福亭羽光さん、桂南天さんが中トリで、笑福亭鉄瓶さんそしてトリが松喬さんというラインナップなんです。
(松喬) いや、すごいバラエティに富んでますよね。鉄瓶さん、羽光さん、小鯛さんも今、飛ぶ鳥を落とす勢いですね。で、晩の部の桂二葉ちゃん。これがもうすごいじゃないですか。ねぇ? 今、二葉ちゃんの会はいっぱいになりますから!
〇男性と女性で切磋琢磨を
(伊藤) ほんとに! 図らずも松喬さんからそんなお話がありましたけど、女性の二葉さんがNHKで大きな賞をお取りになりました。で、今の上方落語の世界には若手がどんどん、どんどん出てきていますよね? これを松喬さんはどんな風に見てらっしゃいますか?
(松喬) 私は二葉ちゃんの「ジジイども、見たか!」っていうのが、還暦になってちょっとドキッと堪える側になってきましたけど、それくらいの気で女性の噺家さんたちが取り組んできたというパワーは感じますね。
(伊藤) 受賞された時の会見で、感想を問われた時に、二葉さんがおっしゃったんですよね?
(松喬) はい、「ジジイども、見たか」と。やっぱりそれくらいの気でやってきたというのはよくわかりますよね。だから、そこに目くじら立てずにね。男たちもそれくらいの気で。それが芸事やと思います。私は1年上に桂あやめさんがいらっしゃいます。あやめさんのかわいらしさ、発想力にずっと、「わー、女性ってやっぱり強いな」と思ってきました。けど、まぁ2、30年たった時に、「やっぱり落語会は最後、男の落語を聞いて帰りたいなー」と思ってもらいたいなと思って頑張ってきたのは間違いないです。それはあやめさんのおかげです。賞もあやめさんが先に受賞してましたけど、最後、お客さんが「やっぱり落語は男の噺を聞いて帰ろかな」と思ってもらいたいがためにやってきたのは間違いないですから。これは切磋琢磨でしょうね。
(伊藤)そしてこれが、令和の世の中になった時に、昭和に入門された松喬さんやあやめさんの思いがずーっと連なってきて、今、二葉さんというまた新しい女性のパワーが出てきたわけで。
(松喬) そうなんです。また、その辺の男の噺家たちが「くそー、負けるもんか」ってまた頑張ってもらえれば、どんどんどんどんいい効果になると思いますんで。僕は、二葉ちゃんは素晴らしいと思いますね。
〇これからの上方落語
(伊藤) 落語界全体で言うと、そんなことがあったという中での「上方落語をきく会」。本当に若い、これからというみなさんにもたっぷり演じていただくという構成になっています。ABCラジオは例年通り、3月6日の日曜日はお昼1時から8時間の大生放送でございますし、会場へのチケット、それからオンラインチケットの発売もさせていただいております。我々ABCラジオも、「新しい落語の聞いていただき方」にもチャレンジしていこうと思っておりまして。これからの落語、これからの上方落語はどうでしょうかね?
(松喬) 頼もしい人ばっかりです。なんべんも申しますが、二葉さんであるとか、夜の部に出ている華紋さんもその前の前の年のNHKの受賞者ですし。方正さんも柳正さんというお弟子さんを取ったし。この世界、後継者が増えてくれることが何よりなんで、どんどんどんどん活性化してくれると思います。私もなんとか70歳くらいまでは元気でしゃべりたいなと思っています。表向きはあと30年、90歳と言いますけど、とりあえず70歳を目標に、あと10年頑張ってしゃべらせていただきたいと思っています。
(伊藤) これからの上方落語界、10年後くらいにね、「あの、120回の会があったよね」と言っていただけるような、そんな会になりそうな予感がするんですよ、松喬さん。
(松喬) そうですか? その時は史隆さんもおってくださいよ、ここに。司会をよろしく。
(伊藤) ハハハ。私もとりあえず70歳くらいまで頑張ろうかなっていう感じで(笑) そこから一歩一歩。
(松喬) 一歩一歩ですよね! あまり高みを見てもたいへんなんで。70歳くらいまでおしゃべりさせていただきますんで、よろしくお願いいたします。
(伊藤) 今回、「第120回上方落語をきく会」の昼の部でトリをとっていただく松喬さんにお話をいただきました。どうもありがとうございました!
(松喬) ありがとうございました。失礼いたしました!
(2022年2月16日 ABCスタジオ)
構成=日高美恵 撮影=石野魁盛
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笑福亭松喬(しょうふくてい・しょきょう)
1961年3月4日生まれ。兵庫県西宮市出身。83年4月に六代目笑福亭松喬(当時は鶴三)に入門して「笑三」。87年に「三喬」に改名。2017年に「七代目笑福亭松喬」を襲名。令和3年度文化庁芸術祭大賞、平成29年度大阪文化祭賞、平成19年繁昌亭大賞、平成17年文化庁芸術祭優秀賞ほか
〇イベント情報
創立70周年記念「ABCラジオ上方落語をきく会」
2022年3月6日(日)ナレッジシアター(グランフロント大阪内)にて
【昼の部出演者】12時30分開演、15時30分終演予定
笑福亭松喬、桂南天、笑福亭鉄瓶、笑福亭羽光、桂小鯛、笑福亭智丸
【夜の部出演者】17時30分開演、21時終演予定
桂文三、桂吉弥、月亭方正、桂華紋、桂二葉、桂りょうば
総合司会:伊藤史隆アナウンサー、桂紗綾アナウンサー
〇公式HP:https://www.abc1008.com/rakugo_kikukai/
【チケット購入はコチラから!】
◆チケットぴあ http://t.pia.jp/
◆チケットぴあ Pコード:510-482
※3月13日(日)までオンライン視聴が可能