株式会社キョードーメディアスのプレスリリース
物語は、ひとことで言ってしまえば「若き王子ピピンの自分探し」。だがそのひとことから想像するような、勇気と希望にあふれた冒険譚を期待するなかれ。成功とは、幸せとは、社会の中で生きるとはどんなことなのか。残念なことに初演時以上に胸に迫ってしまう、人類と戦争の関係についても触れられる。しかもそのすべてが劇中劇の形で展開され、“劇”と“劇中劇”の境目が明確に提示されるわけでもないため、誤解を恐れずに言えば抽象的な物語。しかしそれこそが本作の独自性なのであり、分かりやすくするのではなく、まるでその難解さごとエンターテイメントにしてしまうような方向に振り切った、パウルスの演出がやはり光りに光る。
パウルスが付け加えたのは、劇中劇を上演しているのがサーカス一座であり、狂言廻しにあたる“リーディングプレイヤー”はその座長的存在だという設定。そのためステージ上では、常に驚くべき、そして少しの恐怖も感じさせる技が繰り広げられている。日本人キャストが果敢に技に挑戦する一方、ゲストのサーカスパフォーマーたちも時に日本語のセリフを喋るなど、ミュージカルとサーカスが完全に一体化した舞台。それはまさに“魅惑”のひとことで、理屈を越えたところで感覚に訴えてくるこの物語に、この上なく相応しいのだ
そんなパウルス演出版の魅力を、当たり役揃いのキャスト陣が体現するのが日本語版。森崎はその身軽さとソフトな歌声、無邪気さの中にもどこか影を感じさせる佇まいで、前任の城田優とは全く異なるピピン像を描き出す。Crystal Kayの自在な歌声とマジカルな存在感は、リーディングプレイヤーを日本で演じられるのはやはり彼女しかいないと、改めて実感させるに十分。そして特筆すべきはやはり、ピピンの祖母バーサ役の前田美波里である(中尾ミエとWキャスト)。初演時、空中ブランコで逆さ吊りになりながら歌うという離れ業をやってのけていた気がするのは、冷静に考えたらさすがに記憶違いではないかと思っていたのだが、今回も本当に逆さ吊りで、しかも笑顔で歌っていた。この文面を読んで「まさか~」と思った向きにはぜひ、劇場で確かめてほしい。
最後になったが、スティーヴン・シュワルツ(『ウィキッド』)の味わい深い音楽と、フォッシー・スタイルによる異彩を放つダンスももちろん、本作に欠かせない魅力。これだけの力あるキャスト陣がパフォーマンスするのを観ていると、ミュージカル・アンチ層がよく唱える「なぜいきなり歌い、踊るのか」という疑問に対する答えの一つは、「そこに歌われるべき楽曲と踊られるべき振付があって、歌うべき・踊るべき俳優がいるから」なのではないかと思えてくる。その意味ではぜひ、アンチ層にも観てほしい一作だ。
文:町田麻子【ミュージカル文筆家】
写真:ヒダキトモコ
<公演概要>
【公演名】ブロードウェイミュージカル『ピピン』
【東京公演】
2022年8月30日(火)~9月19日(月・祝)
【会場】
東急シアターオーブ(渋谷ヒカリエ11階)
【大阪公演】
2022年9月23日(金・祝)〜9月27日(火)
【会場】
オリックス劇場
【脚本】 ロジャー・O・ハーソン
【作詞・作曲 】スティーヴン・シュワルツ
【演出】ダイアン・パウルス
【振付】チェット・ウォーカー (in the style of Bob Fosse)
【サーカス・クリエーション】ジプシー・シュナイダー(Les 7 doigts de la main)
【出演】
ピピン:森崎ウィン
リーディングプレイヤー:Crystal Kay(クリスタル ケイ)
チャールズ:今井清隆
ファストラーダ:霧矢大夢
キャサリン:愛加あゆ
ルイス:岡田亮輔
バーサ(Wキャスト) :中尾ミエ / 前田美波里
テオ(Wキャスト):高畑遼大 / 生出真太郎
加賀谷真聡、神谷直樹、坂元宏旬、茶谷健太、常住富大、石井亜早実、永石千尋、伯鞘麗名、妃白ゆあ、長谷川愛実 、増井紬
スペシャルゲスト:ローマン・ハイルディン ジョエル・ハーツフェルド、オライオン・グリフィス モハメド・ブエスタ エイミー・ナイチンゲール
※やむを得ない事情により、出演者が変更になる可能性がございます。
【チケット】好評発売中。*詳細、各地の料金は公式ホームページをご参照ください。
【公式HP】https://www.pippin2022.jp
【お問い合わせ】キョードー東京 0570-550-799(平日11:00-18:00/土日祝10:00-18:00